学園へのドラゴン来襲事件が解決した後。

 アケロニア王国はリースト伯爵令息ヨシュア、この小柄な少年英雄に『竜殺し』、ドラゴンスレイヤーの称号を授与した。

 猛者の集まる王立騎士団員や魔法魔術騎士団にも、竜殺しの称号持ちは数えるほどしかいない。
 そもそも竜は騎士や冒険者たちが複数で追い詰めて討伐するものであって、個人で倒せるものは数少ない。
 ヨシュアはそのうちの一人として、若年ながら名誉を得たのだ。

 その後しばらくの間、国内の主要な新聞各紙では連日、英雄となったリースト伯爵家の嫡男ヨシュアの話題が紙面を賑わせていたものである。



 と、ここまでなら、天与の才を持つ少年が英雄となった美談で終わるのだが、あいにくそう気持ちよくまとまる話でもなかった。

 ドラゴンと対峙したとき、ヨシュアは百本近い魔法剣を出していた。
 いくら何でもやりすぎだった。本来なら、身体と心の成長に合わせて少しずつ使いこなしていくべきものを、一気に放出した負担は大きかった。

 肉体のキャパシティを超えて魔力を使ったことで、ヨシュアは自分の生まれ持つ莫大な魔力と、未成熟な肉体とのアンバランスによる心身の不調を抱え込むことになってしまったのだ。
 竜を倒した直後も魔力の使いすぎで昏倒し、数日目を覚まさなかったぐらいで。

 以降、魔法剣士としての実力はそのまま年々磨かれていったが、肉体の練度がそれに付いていけなくなった。
 大人になるまでに徐々にバランスは取れていくとの医師や魔法使い、魔術師らの見解はあったものの。

 本人は自分の不安定な状態にすっかり厭気がさしてしまい、周囲が気づいた頃には、物事に怠惰で面倒くさがりの横着者と化していた。
 身体が怠いからとすぐ学園を休むし、体育の授業はサボって校舎の屋上や保健室で眠りこける。
 定期試験は途中で倒れるからと、事前に半年分をあらかじめ受けさせろと学園長に掛け合って許可をもぎ取り、以降は試験どころか平時の授業も気づいたらいなくなっている。

 一応、すべての行動に“不調”の理由があるから、クラスメイトや教員たち、学園側もあまり口出しせず、見守るに留めている。

 だが、あの美貌であの才能の持ち主だ。
 誰もが皆、心配して様子を窺っているというのが実情だった。
 もちろん、幼馴染みのカズンはその筆頭である。

 そこへ来て、彼の実家、リースト伯爵家への父の後妻による簒奪事件の発生。
 まだしばらくは、ヨシュア絡みの話題は学園内を賑わせることになりそうだった。