それから小一時間後、カズンたちの応接間までヨシュアとユーグレン王子が連れ立って戻ってきた。
ヨシュアは目元を腫らしていたが、祭壇の前で震えていた先ほどとは打って変わって、吹っ切れたような顔つきになっていた。
後ろにヨシュアを守るように立つユーグレン王子は、王族として人目に晒してはならない、蕩けて崩れた顔になっている。
カズンは軽くユーグレンを睨んだが、まずはヨシュアだ。
「もう大丈夫なのか、ヨシュア」
「はい。父の亡骸も無事棺に収め終わりました。皆様には恥ずかしいところをお見せしてしまい、申し訳ありませんでした」
「気にしないでいいさ。ねえ、お父様、団長閣下?」
呼ばれた年長者は二人とも、優しい表情で頷いた。
「ユーグレン殿下には力強く励ましていただき、父の棺を閉めるお手伝いまで……。感謝申し上げます」
「い、いや、礼を言われるほどのことはしていない」
ヨシュアに振り向かれ、瞬時に蕩け崩れていた顔を引き締めたのはさすがだった。
その後はリースト伯爵家でご自慢のサーモンパイの昼食をいただいた後で解散となった。
団長とは伯爵家で別れ、カズン、ヴァシレウス、ユーグレンの王族三人はアルトレイ女大公家の屋敷まで同じ馬車で帰ってきた。
「少しはヨシュアと仲良くなれましたか、ユーグレン殿下」
「………………」
「殿下?」
侍女に茶を入れて貰って、応接間でさっそくどんな首尾だったかを確認したカズンだったが。
「えっと、……駄目、だったんですか? あんなに格好良くヨシュアを諭してたのに?」
「……私はもうこの彼に触れた両手を二度と洗わない……彼の涙の染み込んだ今日の礼装は永久に保存する……」
何やら余計に拗らせたようだ。
リースト伯爵邸にいたときのような、多幸感を噛み締めて蕩け崩れた顔になっている。
自分たちとよく似た黒髪と黒目、キリッと引き締まった端正な男前が崩れている様は、カズンもヴァシレウスもあまり見たくないと思った。
まあ気を取り直して、
「あの後、儀式部屋でヨシュアを宥めたとき、そのまま仲良くなれなかったのか?」
せっかく二人きりになれた好機を、なぜ生かさなかったのかとヴァシレウスが首を傾げている。
「彼のお父上が見ている場所で、打算的な行動はできません!」
「ああ……まあ、そうかもな……」
確かに、ヨシュアの父の亡骸があるところで仲良くなりたいだの何だの言うのは、不謹慎だったろう。
「だ、だが聞いてほしい、カズン、ヴァシレウス様! 後日、今日の礼をしに王宮まで来てくれるそうなんだ。そのとき中庭のあずまやでお茶をして、その後は薔薇園を案内して、父親を亡くした彼の心を慰めたいと思う。どうだろうか!?」
いや、どうだろうかも何も。
「……殿下。あなた、ヨシュアと二人きりで間が持つんですか?」
「あ」
やれやれと、ヴァシレウスが溜め息を吐いた。
「カズン、少しだけでいいから、ユーグレンを応援してやってくれるかい? さすがに私も居たたまれなくなってきたよ」
「……はい、僕も同じ気持ちです、お父様」
同じ学園に通う生徒で、クラスは違えど同学年でもある。
意識してヨシュアとユーグレンを引き合わせてやろうと、カズンは脳裏で算段を始めるのだった。
ヨシュアは目元を腫らしていたが、祭壇の前で震えていた先ほどとは打って変わって、吹っ切れたような顔つきになっていた。
後ろにヨシュアを守るように立つユーグレン王子は、王族として人目に晒してはならない、蕩けて崩れた顔になっている。
カズンは軽くユーグレンを睨んだが、まずはヨシュアだ。
「もう大丈夫なのか、ヨシュア」
「はい。父の亡骸も無事棺に収め終わりました。皆様には恥ずかしいところをお見せしてしまい、申し訳ありませんでした」
「気にしないでいいさ。ねえ、お父様、団長閣下?」
呼ばれた年長者は二人とも、優しい表情で頷いた。
「ユーグレン殿下には力強く励ましていただき、父の棺を閉めるお手伝いまで……。感謝申し上げます」
「い、いや、礼を言われるほどのことはしていない」
ヨシュアに振り向かれ、瞬時に蕩け崩れていた顔を引き締めたのはさすがだった。
その後はリースト伯爵家でご自慢のサーモンパイの昼食をいただいた後で解散となった。
団長とは伯爵家で別れ、カズン、ヴァシレウス、ユーグレンの王族三人はアルトレイ女大公家の屋敷まで同じ馬車で帰ってきた。
「少しはヨシュアと仲良くなれましたか、ユーグレン殿下」
「………………」
「殿下?」
侍女に茶を入れて貰って、応接間でさっそくどんな首尾だったかを確認したカズンだったが。
「えっと、……駄目、だったんですか? あんなに格好良くヨシュアを諭してたのに?」
「……私はもうこの彼に触れた両手を二度と洗わない……彼の涙の染み込んだ今日の礼装は永久に保存する……」
何やら余計に拗らせたようだ。
リースト伯爵邸にいたときのような、多幸感を噛み締めて蕩け崩れた顔になっている。
自分たちとよく似た黒髪と黒目、キリッと引き締まった端正な男前が崩れている様は、カズンもヴァシレウスもあまり見たくないと思った。
まあ気を取り直して、
「あの後、儀式部屋でヨシュアを宥めたとき、そのまま仲良くなれなかったのか?」
せっかく二人きりになれた好機を、なぜ生かさなかったのかとヴァシレウスが首を傾げている。
「彼のお父上が見ている場所で、打算的な行動はできません!」
「ああ……まあ、そうかもな……」
確かに、ヨシュアの父の亡骸があるところで仲良くなりたいだの何だの言うのは、不謹慎だったろう。
「だ、だが聞いてほしい、カズン、ヴァシレウス様! 後日、今日の礼をしに王宮まで来てくれるそうなんだ。そのとき中庭のあずまやでお茶をして、その後は薔薇園を案内して、父親を亡くした彼の心を慰めたいと思う。どうだろうか!?」
いや、どうだろうかも何も。
「……殿下。あなた、ヨシュアと二人きりで間が持つんですか?」
「あ」
やれやれと、ヴァシレウスが溜め息を吐いた。
「カズン、少しだけでいいから、ユーグレンを応援してやってくれるかい? さすがに私も居たたまれなくなってきたよ」
「……はい、僕も同じ気持ちです、お父様」
同じ学園に通う生徒で、クラスは違えど同学年でもある。
意識してヨシュアとユーグレンを引き合わせてやろうと、カズンは脳裏で算段を始めるのだった。