今年、学園を卒業することになるカズンたちには結婚問題もある。
ここ、アケロニア王国はカズンの姉にあたる王女が何十年も前に政略結婚で他国の王家に嫁いだ結果、粗末な扱いを受けて早逝した事件が起きている。
以降、少なくとも王家は政略結婚を非推奨する方針に転換して、結果、カズンもユーグレンも王族でありながら婚約者のひとりもいない。
現在、アケロニア王国では、始祖から続く直系王族の数がとても少なかった。
存命中の人物は、まず先王ヴァシレウス。
彼の長男で現王のテオドロス。
正妃は数年前に亡くなっている。
テオドロスと正妃との間に、王女がひとり。グレイシア王太女という。次期女王だ。
そのグレイシア王太女が国内の貴族だった夫との間にもうけたのが、ユーグレン第一王子。
この四名に加えて、ヴァシレウスと彼の曾孫セシリアの間に産まれたのが王弟カズン。それでもたった五人しかいない。
セシリアを加えても六人。
アケロニア王国は、円環大陸という、その名の通りドーナツ状をした巨大大陸の北西部にある王制国家だ。
この円環大陸には大小様々な規模の国家があり、多様な人種がそれぞれ暮らしている。
実は現時点において、王政や貴族制を採用している国家は、少数派にあたる。
他の多くは、この百年ほどの間にほとんどが民主制や共和制に移行していた。それが“時代の流れ”だった。
カズンの父、先王ヴァシレウスも現役時代から、国民から選ばれた元首を頭に据えた民主制への移行を考えていたそうなのだが、いまだ実現には至っていない。
理由のひとつに、アケロニア王国の王族や貴族たちが、魔力量の多い人種であることが挙げられる。
魔力は、誰でも魔術式さえマスターすれば同じ再現性ある術の行使が可能な魔術と、一から想像力を使って望む現象を創造する魔法、二種類の使い方がある。
魔術にしろ魔法にしろ、これまで国家の発展に寄与してきたのは、魔力の主な使い手たちである王侯貴族なのだ。
民主制や共和制に移行して国民の間の身分制度が撤廃されれば、魔力の多い一族の血筋の管理が困難になるだろうと予測されている。
実際、王侯貴族制を廃した他国の中には、稀有で特殊な魔力を持つ一族がたった数代で滅んでしまった例がいくつもある。
それに王族はともかく、零落と滅亡の先例を恐れる貴族たちの強い反発と抵抗で、民主制への移行がなかなか進まない。
(王族に子供が産まれにくいのは、既にアケロニアが国として衰退期に入っているからだと……あの魔術師は言っていたな)
円環大陸の中央には周囲を水に囲まれた小国がある。
人口は一万人に足らず、水に囲まれた孤島に等しい立地から、実態がなかなか掴めないことでも知られている。
ところがこの小国、この大陸にある国家の中で、最も古くから存在すると言われている国家なのだ。国名を“永遠の国”という。
恐らく、人類の古代種と呼ばれるハイヒューマンや“神人”を祖に持つ王族が治める王政の国と考えられている。
実態が判然としないにも関わらず、アケロニア王国も他の国家も、永遠の国を無視できない事情があった。
永遠の国は、円環大陸上における国家の格付けを行う国なのだ。
また、各国の王や元首、指導者たちに対する名誉称号を授与することでも知られている。
例えば、アケロニア王国の先王ヴァシレウスは業績の多さを評価されて、“大王”の称号を永遠の国から授けられている。
業績の偉大さを讃える文面とともに届いた書状と勲章に、授与された中年期のヴァシレウスは使者の前で号泣したという。それほどの名誉だ。
そして今、世界中に大王の称号持ちはカズンの父ヴァシレウスしかいない。
その永遠の国には、この数百年の間で最も劇的な“統合魔法魔術式”を編み出した魔術師が所属している。
フリーダヤという一見まだ二十代半ばくらいの外見をした、長く白いローブをまとう、薄緑色の長い髪を持つ優男風の男性魔術師だ。
“時を壊す”という寿命破壊の魔法で不老不死を実現したとされる、不老不死を得た数少ない魔術師と言われている。
彼が数年前、アケロニア王国を訪れたとき、カズンも王族の一員として王宮で彼と対面し、会話する栄誉に恵まれた。
そのとき彼フリーダヤが言ったのが、
『アケロニア王国は成熟し、既に衰退期に入っているよ』
偉大なヴァシレウス大王の御代で円熟し、以降は緩やかな衰退を辿っていると彼は言った。
既にその兆候は、王家に産まれる子供の少なさに表れているという。
確かに、ヴァシレウスは在位時、正妃や複数の側室を持っていたが、産まれたのは正妃との間の王女と王子がひとりずつだけだった。
王となった王子テオドロスも、正妃との間にもうけたのは現代王太女となった王女ひとりのみ。
その王女も、夫との間にユーグレンただ一人のみ得て、以降は妊娠の兆しもなかったという。
この話を魔術師フリーダヤから聞いた先王ヴァシレウスと現王テオドロスは、今後の国の在り方と自分たち王族の血筋の保存をどうするかに頭を悩ませている。
結論として、なるようになれで、次世代の判断に委ねられることになった。
即ち、ユーグレン王子と王弟カズンの二人にだ。
伴侶を探すなら自分でやれと言われたし、子供を作るも作らぬも自分の責任でと。
ここ、アケロニア王国はカズンの姉にあたる王女が何十年も前に政略結婚で他国の王家に嫁いだ結果、粗末な扱いを受けて早逝した事件が起きている。
以降、少なくとも王家は政略結婚を非推奨する方針に転換して、結果、カズンもユーグレンも王族でありながら婚約者のひとりもいない。
現在、アケロニア王国では、始祖から続く直系王族の数がとても少なかった。
存命中の人物は、まず先王ヴァシレウス。
彼の長男で現王のテオドロス。
正妃は数年前に亡くなっている。
テオドロスと正妃との間に、王女がひとり。グレイシア王太女という。次期女王だ。
そのグレイシア王太女が国内の貴族だった夫との間にもうけたのが、ユーグレン第一王子。
この四名に加えて、ヴァシレウスと彼の曾孫セシリアの間に産まれたのが王弟カズン。それでもたった五人しかいない。
セシリアを加えても六人。
アケロニア王国は、円環大陸という、その名の通りドーナツ状をした巨大大陸の北西部にある王制国家だ。
この円環大陸には大小様々な規模の国家があり、多様な人種がそれぞれ暮らしている。
実は現時点において、王政や貴族制を採用している国家は、少数派にあたる。
他の多くは、この百年ほどの間にほとんどが民主制や共和制に移行していた。それが“時代の流れ”だった。
カズンの父、先王ヴァシレウスも現役時代から、国民から選ばれた元首を頭に据えた民主制への移行を考えていたそうなのだが、いまだ実現には至っていない。
理由のひとつに、アケロニア王国の王族や貴族たちが、魔力量の多い人種であることが挙げられる。
魔力は、誰でも魔術式さえマスターすれば同じ再現性ある術の行使が可能な魔術と、一から想像力を使って望む現象を創造する魔法、二種類の使い方がある。
魔術にしろ魔法にしろ、これまで国家の発展に寄与してきたのは、魔力の主な使い手たちである王侯貴族なのだ。
民主制や共和制に移行して国民の間の身分制度が撤廃されれば、魔力の多い一族の血筋の管理が困難になるだろうと予測されている。
実際、王侯貴族制を廃した他国の中には、稀有で特殊な魔力を持つ一族がたった数代で滅んでしまった例がいくつもある。
それに王族はともかく、零落と滅亡の先例を恐れる貴族たちの強い反発と抵抗で、民主制への移行がなかなか進まない。
(王族に子供が産まれにくいのは、既にアケロニアが国として衰退期に入っているからだと……あの魔術師は言っていたな)
円環大陸の中央には周囲を水に囲まれた小国がある。
人口は一万人に足らず、水に囲まれた孤島に等しい立地から、実態がなかなか掴めないことでも知られている。
ところがこの小国、この大陸にある国家の中で、最も古くから存在すると言われている国家なのだ。国名を“永遠の国”という。
恐らく、人類の古代種と呼ばれるハイヒューマンや“神人”を祖に持つ王族が治める王政の国と考えられている。
実態が判然としないにも関わらず、アケロニア王国も他の国家も、永遠の国を無視できない事情があった。
永遠の国は、円環大陸上における国家の格付けを行う国なのだ。
また、各国の王や元首、指導者たちに対する名誉称号を授与することでも知られている。
例えば、アケロニア王国の先王ヴァシレウスは業績の多さを評価されて、“大王”の称号を永遠の国から授けられている。
業績の偉大さを讃える文面とともに届いた書状と勲章に、授与された中年期のヴァシレウスは使者の前で号泣したという。それほどの名誉だ。
そして今、世界中に大王の称号持ちはカズンの父ヴァシレウスしかいない。
その永遠の国には、この数百年の間で最も劇的な“統合魔法魔術式”を編み出した魔術師が所属している。
フリーダヤという一見まだ二十代半ばくらいの外見をした、長く白いローブをまとう、薄緑色の長い髪を持つ優男風の男性魔術師だ。
“時を壊す”という寿命破壊の魔法で不老不死を実現したとされる、不老不死を得た数少ない魔術師と言われている。
彼が数年前、アケロニア王国を訪れたとき、カズンも王族の一員として王宮で彼と対面し、会話する栄誉に恵まれた。
そのとき彼フリーダヤが言ったのが、
『アケロニア王国は成熟し、既に衰退期に入っているよ』
偉大なヴァシレウス大王の御代で円熟し、以降は緩やかな衰退を辿っていると彼は言った。
既にその兆候は、王家に産まれる子供の少なさに表れているという。
確かに、ヴァシレウスは在位時、正妃や複数の側室を持っていたが、産まれたのは正妃との間の王女と王子がひとりずつだけだった。
王となった王子テオドロスも、正妃との間にもうけたのは現代王太女となった王女ひとりのみ。
その王女も、夫との間にユーグレンただ一人のみ得て、以降は妊娠の兆しもなかったという。
この話を魔術師フリーダヤから聞いた先王ヴァシレウスと現王テオドロスは、今後の国の在り方と自分たち王族の血筋の保存をどうするかに頭を悩ませている。
結論として、なるようになれで、次世代の判断に委ねられることになった。
即ち、ユーグレン王子と王弟カズンの二人にだ。
伴侶を探すなら自分でやれと言われたし、子供を作るも作らぬも自分の責任でと。