その日の夜、ヨシュアが就寝しようという時間になって、バルコニーから窓を叩く音が聞こえてくる。
警戒しながらカーテンを開けると、そこには昼間会ったばかりの、薄緑色の長い髪と瞳を持つ長く白いローブ姿の優男、フリーダヤがいる。
「やあ。ヨシュア君」
「フリーダヤ様、こんな時刻に何のご用でしょう? まさか夜這いとか?」
「まさか。カズンに怒られるようなことはしないさ。それに、そんなことしたらいくら私でもルシウスに殺される」
昼間、午後に一度カズンやユーグレンとリースト伯爵家を訪れていたフリーダヤは、ヨシュアがカズンやユーグレンと親しい間柄なことを聞かされている。
それに結局、環に関する話をした後は、ルシウスから如何に自分の甥が可愛く優秀か、本人の気が済むまでとことん甥っ子自慢に付き合わされてしまったのだ。
ここであの男に捕まったら、また長話に付き合わされること間違いなしだ。
「そろそろ王都を出ようと思うんだけど、君のことが気になってたからさ」
ヨシュアは寝間着姿のまま部屋へとフリーダヤを迎え入れる。
茶でも用意させようかと言うと、それほど長居するつもりはないとのこと。
「久し振りに、存在として莫大な魔力量を持つ者に会ったからさ。もうちょっとだけアドバイスしておこうかと思って」
「! 是非に! それは願ってもないことです」
銀の花咲く湖面の水色の瞳で、食い入るようにフリーダヤを見つめる。
「多分ね、君の一族は魔力量が多すぎて存在崩壊の危機に陥ったことがあるはずなんだ。その危機を切り抜けるために用いた術が、ダイヤモンドの魔法剣なんだと思うよ」
ヨシュアが創り出し扱うダイヤモンドの魔法剣が、過剰に魔力を消費するものだとは指摘されたばかりだった。
「ですが、昼間伺った話だと、魔法剣こそが魔力を阻害していると仰ってたではありませんか」
「うーん……つまりさ、君のご先祖様の時代には、余分な魔力を一本一本、魔法剣に加工することで上手く消費していったわけさ。だけど子孫の君は、ご先祖様たちほど魔力があるわけではない。他の魔力使いより多いとはいっても、さ」
そもそも、旧世代の魔力使いは、元々の血筋自体に大量の魔力を保持し、また更に増大させるような組み合わせの婚姻と子作りを続けて来ていることが多い。
そうして得た強大な力を制御しきれず滅んでいった一族もまた、枚挙に暇がない。
「……魔法剣を捨てれば、その分の魔力が回復するということなのですね」
「捨てろとまでは言わない。でも、百本以上ある現在の魔法剣をとりあえず一つでいいから、魔力に還元してみることを勧めるよ。それを私から君への課題としよう」
更に、とフリーダヤは自分の環を頭部の周りに発現させた。
この位置に環が出る者は、知性に優れると言われている。
光の円環が柔らかく室内を照らし出す。
「環が発現できるようになると、自分のステータスにそれまで隠れていたスキルや称号が隠しステータスとして出てくるようになる。環を発現した上で総合鑑定スキルを持つと、魔力使いのステータスにカッコの中身が浮き出て見えるのさ」
自分のステータスを表示してごらん、と優しく言われて、ヨシュアは素直にステータスを目の前に出した。
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ヨシュア・リースト
:リースト伯爵、学生
称号:魔法剣士、竜殺し
体力 6
魔力 8
知力 7
人間性 6
人間関係 3
幸運 1
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フリーダヤはヨシュアのステータス欄の“称号”の箇所を指差した。
“魔法剣士”の文字が明滅している。
そのまま見ていると、魔法剣士の称号は消えて、下から浮き出てくるように別の文字が現れた。
「大、魔道士……」
「そう。君は剣士の素質は、本来なら持ってない。先祖代々、魔法剣を受け継いでいるから魔法剣士になってるだけ」
「………………」
さすがに、すぐには受け入れられなかった。
金剛石ダイヤモンドの輝きを持つ魔法剣は、リースト伯爵家に生まれた男子の誇りである。
亡くなった父カイルも、祖父メガエリスも、後見人として自分の仕事を手伝ってくれている叔父ルシウスも。
数は違えど同じ剣を持っているからこそ、深く通じ合えるものがあるというのに。
警戒しながらカーテンを開けると、そこには昼間会ったばかりの、薄緑色の長い髪と瞳を持つ長く白いローブ姿の優男、フリーダヤがいる。
「やあ。ヨシュア君」
「フリーダヤ様、こんな時刻に何のご用でしょう? まさか夜這いとか?」
「まさか。カズンに怒られるようなことはしないさ。それに、そんなことしたらいくら私でもルシウスに殺される」
昼間、午後に一度カズンやユーグレンとリースト伯爵家を訪れていたフリーダヤは、ヨシュアがカズンやユーグレンと親しい間柄なことを聞かされている。
それに結局、環に関する話をした後は、ルシウスから如何に自分の甥が可愛く優秀か、本人の気が済むまでとことん甥っ子自慢に付き合わされてしまったのだ。
ここであの男に捕まったら、また長話に付き合わされること間違いなしだ。
「そろそろ王都を出ようと思うんだけど、君のことが気になってたからさ」
ヨシュアは寝間着姿のまま部屋へとフリーダヤを迎え入れる。
茶でも用意させようかと言うと、それほど長居するつもりはないとのこと。
「久し振りに、存在として莫大な魔力量を持つ者に会ったからさ。もうちょっとだけアドバイスしておこうかと思って」
「! 是非に! それは願ってもないことです」
銀の花咲く湖面の水色の瞳で、食い入るようにフリーダヤを見つめる。
「多分ね、君の一族は魔力量が多すぎて存在崩壊の危機に陥ったことがあるはずなんだ。その危機を切り抜けるために用いた術が、ダイヤモンドの魔法剣なんだと思うよ」
ヨシュアが創り出し扱うダイヤモンドの魔法剣が、過剰に魔力を消費するものだとは指摘されたばかりだった。
「ですが、昼間伺った話だと、魔法剣こそが魔力を阻害していると仰ってたではありませんか」
「うーん……つまりさ、君のご先祖様の時代には、余分な魔力を一本一本、魔法剣に加工することで上手く消費していったわけさ。だけど子孫の君は、ご先祖様たちほど魔力があるわけではない。他の魔力使いより多いとはいっても、さ」
そもそも、旧世代の魔力使いは、元々の血筋自体に大量の魔力を保持し、また更に増大させるような組み合わせの婚姻と子作りを続けて来ていることが多い。
そうして得た強大な力を制御しきれず滅んでいった一族もまた、枚挙に暇がない。
「……魔法剣を捨てれば、その分の魔力が回復するということなのですね」
「捨てろとまでは言わない。でも、百本以上ある現在の魔法剣をとりあえず一つでいいから、魔力に還元してみることを勧めるよ。それを私から君への課題としよう」
更に、とフリーダヤは自分の環を頭部の周りに発現させた。
この位置に環が出る者は、知性に優れると言われている。
光の円環が柔らかく室内を照らし出す。
「環が発現できるようになると、自分のステータスにそれまで隠れていたスキルや称号が隠しステータスとして出てくるようになる。環を発現した上で総合鑑定スキルを持つと、魔力使いのステータスにカッコの中身が浮き出て見えるのさ」
自分のステータスを表示してごらん、と優しく言われて、ヨシュアは素直にステータスを目の前に出した。
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ヨシュア・リースト
:リースト伯爵、学生
称号:魔法剣士、竜殺し
体力 6
魔力 8
知力 7
人間性 6
人間関係 3
幸運 1
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フリーダヤはヨシュアのステータス欄の“称号”の箇所を指差した。
“魔法剣士”の文字が明滅している。
そのまま見ていると、魔法剣士の称号は消えて、下から浮き出てくるように別の文字が現れた。
「大、魔道士……」
「そう。君は剣士の素質は、本来なら持ってない。先祖代々、魔法剣を受け継いでいるから魔法剣士になってるだけ」
「………………」
さすがに、すぐには受け入れられなかった。
金剛石ダイヤモンドの輝きを持つ魔法剣は、リースト伯爵家に生まれた男子の誇りである。
亡くなった父カイルも、祖父メガエリスも、後見人として自分の仕事を手伝ってくれている叔父ルシウスも。
数は違えど同じ剣を持っているからこそ、深く通じ合えるものがあるというのに。