「ルシウス叔父様なら今、在宅中です。案内しましょう」
そうして、ルシウスとフリーダヤの対面となったわけだが。
「おや、我が師フリーダヤ。何かご用で?」
執務室で書類仕事を片付けていたルシウスは、何の気負いもなくフリーダヤを師と呼んだ。
「君、この国の貴族だったのか……いやまあ確かそんなことを言ってたっけ」
ルシウスは18年ほど前、事情があって円環大陸を旅していたことがある。
そのとき他国の冒険者ギルドでフリーダヤや彼のパートナーである聖女ロータスと遭遇し、魔力使いとしての教えを受けたという。
「では、ルシウス叔父様も環を?」
「それが、こいつは旧世代と新世代のいいとこ取りをしててさあ。いわゆる掛け合わせというやつ」
どういう意味かわからなかったので確認すると、言葉の意味通りで、単純に旧世代と新世代、両方の特徴を兼ね備えた魔力使いということだった。
旧世代の魔力使いは、己の肉体が持つ魔力が強く大きい。
魔力の強い血筋というものがあって、アケロニアの代々続く王族や貴族たちはこの類だ。
また、魔力を増大させるために己の感情をありとあらゆる方法を用いて刺激し、掻き立てることで魔力を高める傾向がある。
新世代の魔力使いは逆で、意識や判断力を乱す強烈な感情を厭う者が大半だ。
なぜなら新世代が術を使うのは必ず己の環を通してで、環はその感情と執着を鎮めて無我を作らないと発動できない仕様だからだ。
これら新旧の特徴を考えると、リースト子爵ルシウスは、典型的な旧世代魔力使いの代表に思えるのだが。
「カズン、君に最初の教えを授けるよ。ルシウスみたいに基本のステータス画面がバグってる者と遭遇したら何も考えず速攻逃げろ。人物鑑定のステータス基準よりオーバースペックの者という証拠だからね」
「オーバースペック? つまりルシウス様が?」
「こ、怖……っ」
「え、ではスキルがないのに使えるというのも、そのオーバースペックとやらが原因で?」
ルシウスは本人の有能さとは別に、基本ステータスのほとんどの欄がエラーで表示されないことでも知られている。
例えば現時点であれば、
--
名前 リースト子爵ルシウス
称号 魔法剣士(聖剣)
--
以下、すべて表示がバグっていて読み取れない。
魔法剣士だが大抵の武器を扱えるし、体術にも優れる。
また彼はカズンとヨシュアが調理スキルを獲得するに至った師匠でもある。
腕前からすると上級ランク以上の調理スキルの持ち主なのは間違いないが、やはりステータス画面はバグっていて、調理スキルの文字が読み取れない。
(あれ? 確か僕も環を発現したときステータスが見えなくなってるってお母様が言ってたような……)
「ところでルシウス。きみ、大好きなお兄ちゃんとはどうなったの?」
魔術師フリーダヤと聖女ロータスの弟子となり、環使いとなったはずのルシウス。
非常に力のある新世代の魔力使いとしても覚醒した彼だったが、大事な人を故郷に残していると言って、ある程度のことをふたりから学んだら、それですぐ帰郷してしまったのだ。
「兄なら亡くなりましたよ。今年に入ってから」
「そっか。それは悲しいね」
何とも淡々とした会話をしている。
「かくなる上は、もはや私には最愛の兄の忘れ形見を立派に育て上げることだけが生き甲斐!」
ギッと音がしそうなほど強い視線で甥のヨシュアを見る。
ビクッと震えてヨシュアが冷や汗を流している。
今後、叔父からの修行に不安しかない。
「私は環使いが目指す自由になど興味はない。最愛の側にただいたかった。それだけであったのに!」
コオオオオ……とルシウスのネオンブルーの魔力が遠雷のように鳴る。
本人は滝のような涙を流している。また亡くなった兄のことを思い出して心が悲鳴を上げているのだ。
「とまあ、こんな具合でルシウスは環使いとしてなかなか安定しなかったのさ」
「当然です。兄への思慕を執着と言われるなら本望! 私はどこまでもこの想いを抱えて生きていく!」
「うん。だけどその想いを純粋に高めた果てに無我の境地に辿り着いて環が使えるようになっちゃったんだよねえ。旧世代の魔力使いとして最強の力を持ったまま。恐ろしいもんだよ……」
魔力使いの世界において、新旧合わせての最強はフリーダヤのパートナーの聖女ロータスと言われている。
だが実際は、この“無欠のルシウス”こそが最強ではないかとフリーダヤは見ているそうだ。
「無欠……無欠って……!」
ユーグレンが口元を押さえて、笑いたいのを必死で堪えている。
まさに、彼に相応しい称号ではないか。
「だけどさ、私の魔力使いの系統はファミリーを形成しているから、強いならその力でもって後に続く者たちの良き父であり良き兄になって欲しいんだよ。この男はどうだろう? そこの甥っ子君大好きなだけのおじさんじゃないか」
「あ、僕たちは子供の頃から可愛がってもらっておりましたよ! 技能によってはルシウス様が師匠なのです」
カズンの説明に、ユーグレンもうんうんと腕組みして頷いている。
特に体術など身を守る術の基本など。
「えええ。……じゃあさ、ルシウスはカズンやユーグレン王子が頼むなら動いてくれるわけ? 例えば、僻地の小国で苦境に陥ってる聖女を助けてやってって頼んだら行ってくれるかい?」
「その聖女とやらに私と何の関係が?」
「これだよ」
こういうところが、旧世代の魔力使いの良くないところだ。
自分の利害や重要事項以外は基本、どうでもいいと思っている。
そうして、ルシウスとフリーダヤの対面となったわけだが。
「おや、我が師フリーダヤ。何かご用で?」
執務室で書類仕事を片付けていたルシウスは、何の気負いもなくフリーダヤを師と呼んだ。
「君、この国の貴族だったのか……いやまあ確かそんなことを言ってたっけ」
ルシウスは18年ほど前、事情があって円環大陸を旅していたことがある。
そのとき他国の冒険者ギルドでフリーダヤや彼のパートナーである聖女ロータスと遭遇し、魔力使いとしての教えを受けたという。
「では、ルシウス叔父様も環を?」
「それが、こいつは旧世代と新世代のいいとこ取りをしててさあ。いわゆる掛け合わせというやつ」
どういう意味かわからなかったので確認すると、言葉の意味通りで、単純に旧世代と新世代、両方の特徴を兼ね備えた魔力使いということだった。
旧世代の魔力使いは、己の肉体が持つ魔力が強く大きい。
魔力の強い血筋というものがあって、アケロニアの代々続く王族や貴族たちはこの類だ。
また、魔力を増大させるために己の感情をありとあらゆる方法を用いて刺激し、掻き立てることで魔力を高める傾向がある。
新世代の魔力使いは逆で、意識や判断力を乱す強烈な感情を厭う者が大半だ。
なぜなら新世代が術を使うのは必ず己の環を通してで、環はその感情と執着を鎮めて無我を作らないと発動できない仕様だからだ。
これら新旧の特徴を考えると、リースト子爵ルシウスは、典型的な旧世代魔力使いの代表に思えるのだが。
「カズン、君に最初の教えを授けるよ。ルシウスみたいに基本のステータス画面がバグってる者と遭遇したら何も考えず速攻逃げろ。人物鑑定のステータス基準よりオーバースペックの者という証拠だからね」
「オーバースペック? つまりルシウス様が?」
「こ、怖……っ」
「え、ではスキルがないのに使えるというのも、そのオーバースペックとやらが原因で?」
ルシウスは本人の有能さとは別に、基本ステータスのほとんどの欄がエラーで表示されないことでも知られている。
例えば現時点であれば、
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名前 リースト子爵ルシウス
称号 魔法剣士(聖剣)
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以下、すべて表示がバグっていて読み取れない。
魔法剣士だが大抵の武器を扱えるし、体術にも優れる。
また彼はカズンとヨシュアが調理スキルを獲得するに至った師匠でもある。
腕前からすると上級ランク以上の調理スキルの持ち主なのは間違いないが、やはりステータス画面はバグっていて、調理スキルの文字が読み取れない。
(あれ? 確か僕も環を発現したときステータスが見えなくなってるってお母様が言ってたような……)
「ところでルシウス。きみ、大好きなお兄ちゃんとはどうなったの?」
魔術師フリーダヤと聖女ロータスの弟子となり、環使いとなったはずのルシウス。
非常に力のある新世代の魔力使いとしても覚醒した彼だったが、大事な人を故郷に残していると言って、ある程度のことをふたりから学んだら、それですぐ帰郷してしまったのだ。
「兄なら亡くなりましたよ。今年に入ってから」
「そっか。それは悲しいね」
何とも淡々とした会話をしている。
「かくなる上は、もはや私には最愛の兄の忘れ形見を立派に育て上げることだけが生き甲斐!」
ギッと音がしそうなほど強い視線で甥のヨシュアを見る。
ビクッと震えてヨシュアが冷や汗を流している。
今後、叔父からの修行に不安しかない。
「私は環使いが目指す自由になど興味はない。最愛の側にただいたかった。それだけであったのに!」
コオオオオ……とルシウスのネオンブルーの魔力が遠雷のように鳴る。
本人は滝のような涙を流している。また亡くなった兄のことを思い出して心が悲鳴を上げているのだ。
「とまあ、こんな具合でルシウスは環使いとしてなかなか安定しなかったのさ」
「当然です。兄への思慕を執着と言われるなら本望! 私はどこまでもこの想いを抱えて生きていく!」
「うん。だけどその想いを純粋に高めた果てに無我の境地に辿り着いて環が使えるようになっちゃったんだよねえ。旧世代の魔力使いとして最強の力を持ったまま。恐ろしいもんだよ……」
魔力使いの世界において、新旧合わせての最強はフリーダヤのパートナーの聖女ロータスと言われている。
だが実際は、この“無欠のルシウス”こそが最強ではないかとフリーダヤは見ているそうだ。
「無欠……無欠って……!」
ユーグレンが口元を押さえて、笑いたいのを必死で堪えている。
まさに、彼に相応しい称号ではないか。
「だけどさ、私の魔力使いの系統はファミリーを形成しているから、強いならその力でもって後に続く者たちの良き父であり良き兄になって欲しいんだよ。この男はどうだろう? そこの甥っ子君大好きなだけのおじさんじゃないか」
「あ、僕たちは子供の頃から可愛がってもらっておりましたよ! 技能によってはルシウス様が師匠なのです」
カズンの説明に、ユーグレンもうんうんと腕組みして頷いている。
特に体術など身を守る術の基本など。
「えええ。……じゃあさ、ルシウスはカズンやユーグレン王子が頼むなら動いてくれるわけ? 例えば、僻地の小国で苦境に陥ってる聖女を助けてやってって頼んだら行ってくれるかい?」
「その聖女とやらに私と何の関係が?」
「これだよ」
こういうところが、旧世代の魔力使いの良くないところだ。
自分の利害や重要事項以外は基本、どうでもいいと思っている。