幼馴染みで気心知れたヨシュアの家なら、前触れなしに訪れても特に問題はない。
カズンは一度、ユーグレンと合流してからフリーダヤを連れてリースト伯爵家へ向かうことにした。
「カズン様? 何かありましたか、昼前に別れたばかりなのに。それに、そちらの方は?」
「ああ、そのことなんだが。僕、環というものを使えるようになったんだ。それで……」
「環? まさか新世代の魔力使いたちのあの?」
怪訝そうにしながらもカズンの来訪が嬉しいらしく、麗しの美貌を綻ばせて出迎えてくれたヨシュア。
だが、カズンが環を発現したと聞いた途端、見る見るうちにその容貌を翳らせて、ついには泣き出してしまった。
「よ、ヨシュア? どうしたんだ、腹でも痛いのか!?」
(いったいどうした!? おまえはそんな情緒不安定さとは無縁の男のはず!)
おろおろと狼狽えるカズンに、流れる涙を拭いもせずにヨシュアが無理やりの笑顔を作る。
「あなたは自分だけで先へ行ってしまうんですね。カズン様」
優れた魔力使いを排出するリースト伯爵家の当主であるヨシュアは、もちろん環のことを知っていた。
環を発現させた者の在り方の変化についても、理解していた。
リースト伯爵家の執事長が気を利かせて、フリーダヤとユーグレンを別室へと連れていった。
ユーグレンたちも心得たというように頷いて、大人しく執事の後をついていく。
先だって、学友のホーライル侯爵令息ライルは身体強化を高めて、剣術スキルのランクを一つ上げた。
その後輩、ブルー男爵令息グレンもライルと一緒にダンジョン巡りをして、冒険者ランクを上げたようだ。
それに伴い、二人のステータスは全体的に大きく向上している。
ここに来て、カズンまで環という破格の力を手に入れた。
ヨシュアも今日のランクアップ試験で冒険者ランクAまで上がったばかりだが、それだけだ。
自分だけが大した変化もなく、停滞し続けているようで強い苛立ちがある。
そう言ってヨシュアはカズンの胸で泣いた。
それから何とか落ち着いた頃、涙を拭ってカズンと来客の待つ応接間へと向かったヨシュア。
しかしそこでフリーダヤという超弩級の有名人の紹介を受けて卒倒しかけた。
「り、環創成の魔術師フリーダヤ様! ま、まさかこのようなところでお会いできるとは……!」
名前はもちろん、その偉大な業績も奇跡もヨシュアは知っていた。
感覚的には物語の中の伝説の人物が目の前にやってきたようなものだった。
「あのさ。君、もしかして同じ顔のお兄さんか親戚っている?」
ヨシュアの顔を見るなり、複雑そうな顔になったフリーダヤがそう聞いてきた。
「同じ顔、ですか? 我がリースト伯爵家の男子はだいたい似たような顔ですが……一番似ているのは叔父でしょうか。ルシウスという父方の叔父がおります」
「ルシウス! そうか、君はルシウスの縁者か!」
「叔父をご存知なのですか?」
「ご存じも何も、私の一番新しい弟子さ。なるほど、こういうふうに縁が繋がってきたんだねえ」
何と、とカズンとユーグレンが同じ黒い目を剥く。
それは初めて聞く話だった。
しかし、だとするとルシウスは新世代の魔力使いということになる。
新世代の魔力使いはすべて、環と呼ばれる光の輪が自分の肉体をくぐるように顕現する。
カズンもユーグレンもそれなりにルシウスと長い付き合いだが、彼の胴体に光の環が現れているところなど、一度も見たことがなかった。
午前中のランクアップ試験でも、彼は金剛石の聖剣を創り出していたが、やはりその身に環はなかった。
カズンは一度、ユーグレンと合流してからフリーダヤを連れてリースト伯爵家へ向かうことにした。
「カズン様? 何かありましたか、昼前に別れたばかりなのに。それに、そちらの方は?」
「ああ、そのことなんだが。僕、環というものを使えるようになったんだ。それで……」
「環? まさか新世代の魔力使いたちのあの?」
怪訝そうにしながらもカズンの来訪が嬉しいらしく、麗しの美貌を綻ばせて出迎えてくれたヨシュア。
だが、カズンが環を発現したと聞いた途端、見る見るうちにその容貌を翳らせて、ついには泣き出してしまった。
「よ、ヨシュア? どうしたんだ、腹でも痛いのか!?」
(いったいどうした!? おまえはそんな情緒不安定さとは無縁の男のはず!)
おろおろと狼狽えるカズンに、流れる涙を拭いもせずにヨシュアが無理やりの笑顔を作る。
「あなたは自分だけで先へ行ってしまうんですね。カズン様」
優れた魔力使いを排出するリースト伯爵家の当主であるヨシュアは、もちろん環のことを知っていた。
環を発現させた者の在り方の変化についても、理解していた。
リースト伯爵家の執事長が気を利かせて、フリーダヤとユーグレンを別室へと連れていった。
ユーグレンたちも心得たというように頷いて、大人しく執事の後をついていく。
先だって、学友のホーライル侯爵令息ライルは身体強化を高めて、剣術スキルのランクを一つ上げた。
その後輩、ブルー男爵令息グレンもライルと一緒にダンジョン巡りをして、冒険者ランクを上げたようだ。
それに伴い、二人のステータスは全体的に大きく向上している。
ここに来て、カズンまで環という破格の力を手に入れた。
ヨシュアも今日のランクアップ試験で冒険者ランクAまで上がったばかりだが、それだけだ。
自分だけが大した変化もなく、停滞し続けているようで強い苛立ちがある。
そう言ってヨシュアはカズンの胸で泣いた。
それから何とか落ち着いた頃、涙を拭ってカズンと来客の待つ応接間へと向かったヨシュア。
しかしそこでフリーダヤという超弩級の有名人の紹介を受けて卒倒しかけた。
「り、環創成の魔術師フリーダヤ様! ま、まさかこのようなところでお会いできるとは……!」
名前はもちろん、その偉大な業績も奇跡もヨシュアは知っていた。
感覚的には物語の中の伝説の人物が目の前にやってきたようなものだった。
「あのさ。君、もしかして同じ顔のお兄さんか親戚っている?」
ヨシュアの顔を見るなり、複雑そうな顔になったフリーダヤがそう聞いてきた。
「同じ顔、ですか? 我がリースト伯爵家の男子はだいたい似たような顔ですが……一番似ているのは叔父でしょうか。ルシウスという父方の叔父がおります」
「ルシウス! そうか、君はルシウスの縁者か!」
「叔父をご存知なのですか?」
「ご存じも何も、私の一番新しい弟子さ。なるほど、こういうふうに縁が繋がってきたんだねえ」
何と、とカズンとユーグレンが同じ黒い目を剥く。
それは初めて聞く話だった。
しかし、だとするとルシウスは新世代の魔力使いということになる。
新世代の魔力使いはすべて、環と呼ばれる光の輪が自分の肉体をくぐるように顕現する。
カズンもユーグレンもそれなりにルシウスと長い付き合いだが、彼の胴体に光の環が現れているところなど、一度も見たことがなかった。
午前中のランクアップ試験でも、彼は金剛石の聖剣を創り出していたが、やはりその身に環はなかった。