それからゾエ夫人は機嫌良くイマージの質問に答えていった。
例えば、新聞にもロットハーナの末裔が関与した可能性が高いと書かれていた、リースト伯爵家の簒奪事件。
イマージの在籍する学園の3年A組には当のリースト伯爵ヨシュアがいる。彼はイマージも転校当初から世話になっている学級委員長カズン・アルトレイの友人だ。
前リースト伯爵カイルの後妻ブリジットは、前の婚家から離縁される前から、ラーフ公爵夫人の取り巻きの一人だったという。
その後妻、最初は再婚相手のリースト伯爵カイルに尽くし家政に張り切っていたが、そこへラーフ公爵夫人だったこのゾエが入れ知恵をした。
即ち、婚家と血の繋がらない自分の連れ子を、再婚相手の跡継ぎにする方法をだ。
まず、リースト伯爵家には嫡男のヨシュアがいるが、彼を何らかの理由によって失脚させる。
また、ヨシュア自身のサイン付きで、連れ子に爵位継承権を譲渡する旨、契約書を書かせればよい。
連れ子にはリースト伯爵家の血は一滴も流れていないから、もちろん貴族社会の目は厳しくなるだろう。
だが、貴族家最高位のラーフ公爵夫人のゾエが後押ししている。
しかる後にリースト伯爵家の一族の娘を娶れば、生まれた子供が伯爵位を継承するまでの間、連れ子が代理伯爵となることはじゅうぶん可能である。
そのように、後妻をそそのかした。
リースト伯爵令息ヨシュアはその頃から既に優秀な魔法剣士として知られていて、付け入る隙はほとんどなかった。
だがそれにも、ラーフ公爵夫人は特殊な魔導具や毒、隷属魔術のうち、多少でも魔力があれば使える術の方法などを授けることで、抵抗を削ぐ術を与える。
そうしたものが、今はほとんど知られなくなった前王家ロットハーナのものだったのである。
「奥様。ひとつだけ教えていただきたいのです。あなたのご子息ジオライド君は、なぜあれほど問題のある人物になってしまったのですか?」
「まあ。お前、良いところに気づいたわね」
ロットハーナの血筋の者は、覚醒すると独自の魔力を持つ。
その魔力の属性を“虚無”という。
「虚無、ですか……。しかも覚醒とは、いったい」
「難しいことはないのよ。何か一つでも、ロットハーナの術を使えば身に付くの。わたくしは娘時代に実家の宝物庫でロットハーナの遺物を見つけて、それで家にいたメイドの一人を黄金に変えてみた。そうしたら使えるようになっていたわ」
この力は意図的に後世に伝える必要がある、と夫人は思ったという。
「だからね、息子に虚無の力を継承させようと少しずつ、わたくしの魔力を馴染ませていったの。そうしたら自制のきかない子になってしまったのよね」
ジオライドは難産でようやく産んだ子供だったから、ゾエもそれなりに愛着のある息子だった。
だから息子が思うようにならないことがわかってからも、彼女なりの歪んだ愛情を注ぎ続けた。
その結果があの、幼稚で破滅的な言動の男だったというわけだ。
「元は、氏より育ちってやつでね。私や実の父より、育ての父親の性格に似てしまったのよね。お金儲けがとにかく上手で、実利的な思考。でもわたくしはもっと深みのある男になってほしかったのに」
この頃にはイマージも理解していた。
(この人は、頭のおかしい人間だ)
今のアケロニア王国の王太女、その伴侶となった男クロレオが彼女の元々の婚約者だったという。
彼がこのゾエを捨てて王太女グレイシアを選んだというなら、それは大した英断だったように思う。
例えば、新聞にもロットハーナの末裔が関与した可能性が高いと書かれていた、リースト伯爵家の簒奪事件。
イマージの在籍する学園の3年A組には当のリースト伯爵ヨシュアがいる。彼はイマージも転校当初から世話になっている学級委員長カズン・アルトレイの友人だ。
前リースト伯爵カイルの後妻ブリジットは、前の婚家から離縁される前から、ラーフ公爵夫人の取り巻きの一人だったという。
その後妻、最初は再婚相手のリースト伯爵カイルに尽くし家政に張り切っていたが、そこへラーフ公爵夫人だったこのゾエが入れ知恵をした。
即ち、婚家と血の繋がらない自分の連れ子を、再婚相手の跡継ぎにする方法をだ。
まず、リースト伯爵家には嫡男のヨシュアがいるが、彼を何らかの理由によって失脚させる。
また、ヨシュア自身のサイン付きで、連れ子に爵位継承権を譲渡する旨、契約書を書かせればよい。
連れ子にはリースト伯爵家の血は一滴も流れていないから、もちろん貴族社会の目は厳しくなるだろう。
だが、貴族家最高位のラーフ公爵夫人のゾエが後押ししている。
しかる後にリースト伯爵家の一族の娘を娶れば、生まれた子供が伯爵位を継承するまでの間、連れ子が代理伯爵となることはじゅうぶん可能である。
そのように、後妻をそそのかした。
リースト伯爵令息ヨシュアはその頃から既に優秀な魔法剣士として知られていて、付け入る隙はほとんどなかった。
だがそれにも、ラーフ公爵夫人は特殊な魔導具や毒、隷属魔術のうち、多少でも魔力があれば使える術の方法などを授けることで、抵抗を削ぐ術を与える。
そうしたものが、今はほとんど知られなくなった前王家ロットハーナのものだったのである。
「奥様。ひとつだけ教えていただきたいのです。あなたのご子息ジオライド君は、なぜあれほど問題のある人物になってしまったのですか?」
「まあ。お前、良いところに気づいたわね」
ロットハーナの血筋の者は、覚醒すると独自の魔力を持つ。
その魔力の属性を“虚無”という。
「虚無、ですか……。しかも覚醒とは、いったい」
「難しいことはないのよ。何か一つでも、ロットハーナの術を使えば身に付くの。わたくしは娘時代に実家の宝物庫でロットハーナの遺物を見つけて、それで家にいたメイドの一人を黄金に変えてみた。そうしたら使えるようになっていたわ」
この力は意図的に後世に伝える必要がある、と夫人は思ったという。
「だからね、息子に虚無の力を継承させようと少しずつ、わたくしの魔力を馴染ませていったの。そうしたら自制のきかない子になってしまったのよね」
ジオライドは難産でようやく産んだ子供だったから、ゾエもそれなりに愛着のある息子だった。
だから息子が思うようにならないことがわかってからも、彼女なりの歪んだ愛情を注ぎ続けた。
その結果があの、幼稚で破滅的な言動の男だったというわけだ。
「元は、氏より育ちってやつでね。私や実の父より、育ての父親の性格に似てしまったのよね。お金儲けがとにかく上手で、実利的な思考。でもわたくしはもっと深みのある男になってほしかったのに」
この頃にはイマージも理解していた。
(この人は、頭のおかしい人間だ)
今のアケロニア王国の王太女、その伴侶となった男クロレオが彼女の元々の婚約者だったという。
彼がこのゾエを捨てて王太女グレイシアを選んだというなら、それは大した英断だったように思う。