詳しく『今日のヨシュア』を聞きたがったユーグレンを交えて夕食を取った。

 食後はリビングに移動して、カズンとユーグレンはハーブティーと甘味、ヴァシレウスはウィスキーと燻製鮭を肴に談笑することとなった。

「亡くなられたリースト伯爵の魔術樹脂の解術儀式の立ち会いを依頼されました。あと最低1人必要なのですが、お父様のご都合いかがですか」

 さすがに先王として在位期間の長かったヴァシレウスは、リースト伯爵家など特殊事情のある家の魔術樹脂の話を知っていた。

 ユーグレンは初めて聞いたようで、王宮でよく顔を合わせていたヨシュアの父の顔を思い浮かべて痛ましげな表情になっている。

「……ヨシュアには辛いことばかり起こるな……。先日の爵位簒奪事件といい……」

 呟いたユーグレンに、ウィスキーのグラスを卓上に置いて、ヴァシレウスは少し厳しい顔を作った。

「今更言っても仕方のないことだがな、ユーグレン。お前が恥ずかしがってないでヨシュアと親しくなっていたなら、リースト伯爵家の惨事は防げたかもしれないのだぞ」
「……そうかも、しれませんね」

 せめて学園内でだけでも親しくしていれば、噂は貴族社会の社交界ですぐに広がる。ヨシュアの義母とその連れ子だって耳にしたはずだ。

 その上で一度でもリースト伯爵家を訪れ遊びにでも行っていれば、義母たちだって“王子の友人”のヨシュアに魔の手を伸ばさなかったかもしれない。

「まあまあ、お父様。王弟の僕が友人でも事件は起きましたから、“たられば”の仮定の話をしても意味がありません」

 カズンは父を軽くたしなめた。
 とはいえ、カズンが王弟で、アルトレイ女大公令息であることを詳しく知るのは、今はまだ学園側と担任、クラスメイトたちぐらいだ。

 この国で王侯貴族は学園卒業と同時に成人となるから、まだ未成年のカズンは社交界にも出ていないし、あまり貴族社会で顔が知られていない。

 母セシリアが大公位を授与されたのもここ数年のことで、政治の中枢に近い者や高位貴族でもごく一部の者しか詳細を知らなかった。

 先日、婚約破棄騒動を起こしたホーライル侯爵令息ライルがカズンを知らなかったのがいい例だ。



「立ち会いは引き受けよう。……ユーグレン、いい経験になる。お前も一緒に参加しなさい」
「え」

 ヴァシレウスに命じられたユーグレンが硬直した。

「わ、私もリースト伯爵家へ行けと仰るのですか、ヴァシレウス様!?」
「いい加減にヨシュアへの、おかしな関わり方を正すがよい。今後は彼が新たな伯爵となるのだから、社交界や王宮での貴族界でも頻繁に顔を合わせることになるのだぞ」

 まさか、そんな場で『ヨシュア尊い……すき……』などと恍惚として天を仰ぐわけにもいくまい。

「魔法魔術騎士団の団長に、僕、お父様、ユーグレン殿下と王族三人。まだ学生のヨシュアの後ろ盾としては文句なしですね!」

 魔法魔術騎士団の団長は公爵家出身で、親戚の侯爵家に婿入りした人物だ。当然、高位貴族である。

 これで見届け用の立会人は合計四名。
 若き魔法剣士でもある新伯爵ヨシュアの応援に、これ以上の布陣はあるまい。