身体を動かすだけでなく、夜にはストレッチやマッサージなども三人で行っていた。
王都でならそれぞれの自宅や王宮で侍従にやらせるものだが、学園生の彼らは武術の授業でクールダウン方法と一緒に習っているため、一通り自分でもできるようになっている。
「家にいたとき、うちのお母様がお父様にして差し上げてたのだが」
言ってカズンがユーグレンを安楽椅子に座らせて、自分はその前に跪いて、裸足のままの片足、左足を掴んだ。
で、足裏を親指の先で押した。力いっぱい。
「い……っ!?」
「お母様の出身、タイアド王国は家族同士で手や足を揉んでやる習慣があるんだそうだ。スキンシップにもなるし、健康状態もわかる」
「ああ、そういえば昔からセシリア様、やってましたねえ。よくカズン様のお手々をにぎにぎされてました」
どれどれ、とヨシュアも自分のストレッチを切り上げて、ユーグレンの足元に跪き、カズンの反対側、右足を掴む。
「ま、待ってくれ、まさか二人がかりでやる気か!?」
ユーグレンが悲鳴のような声を上げて逃げ出そうとしたが、足を二人に掴まれて動けなかった。
「どうやるんです?」
「足の指から踵、足首、だいたい膝の上あたりまで満遍なく押して揉んでさすってだ。特に足裏は念入りに……こう」
「うおっ」
「こう……ですか?」
「ひぃっ!?」
「そうそう。みかんを押し潰すような感覚で……」
「みかん……ぐじゅっと潰れるようなイメージでしょうか……こう?」
「や、やめろぉっ!」
淡々とやり方を説明するカズン。
ふむふむと頷いてすぐ実践のヨシュア。
絶叫混じりに喘ぐユーグレン。
「お、お二人ともその辺で! ユーグレン殿下がお泣きあそばされております!」
「「え?」」
部屋の隅に控えていたユーグレンの護衛ローレンツの声に、安楽椅子の上のユーグレンを見上げると。
天を仰ぎ両手で顔を覆ってマジ泣きしていた。
「う……ううっ、カズン……ヨシュア……お前たち、そんなにも私が嫌いなら口で言えばいいのだ……こんなひどい、こと……せずとも……っ」
「えええっ、そんな、泣くほどのことはしてないぞ僕は?」
解せぬ、という顔のカズンにローレンツは補足を加えた。
「あのー、カズン様。足裏療法は強い痛みが出ることが多いと聞きますので、できればお手柔らかに」
「えっ!? ……あ、そうか。すまん、ユーグレン。ついお父様の足裏みたいに皮膚の硬い足を相手にするのと同じ感覚でやってた」
普段、革製の軍靴をはいて闊歩する健脚のヴァシレウスの足裏は硬い。すごく硬くて、セシリアも専用の指圧棒を使っていたぐらいだ。
「そんな取ってつけたような言い訳など聞きたくないぃ……っ」
「ユーグレン殿下……申し訳ありません、その……痛かったですね?」
宥めるように持っていたユーグレンの右足に口づけた。
ちゅ、とリップ音を立てて。
「!? ……そ、そんなことで私は誤魔化されないからな、ヨシュア!」
(機嫌直ったな)
(直りましたね)
(ははは、まあ男なんて単純なものです)
「だ、だがもういい、二人とも足を離せ!」
「えっ、まだこれからなんだぞ、ユーグレン?」
「こんな痛いこと続けられて堪るか! 私を揶揄うのもいい加減にしろ!」
「別に揶揄ってなどないが……」
困惑した様子のカズンに、またローレンツが助け舟を出した。
「あー、殿下、殿下? カズン様のお母上の母国タイアドの足揉みはですね、家族や本当に親しいものにしかなさらないものと聞きますよ?」
強引に足をカズンたちの手から引き抜こうとしたユーグレンの身体が、ぴたりと止まる。
「カズン様とヨシュア君の体勢をご覧になってください」
「む」
二人してユーグレンの足元に“跪いて”足を持っている。
「親しい者同士とはいえ、愛情がなければできない体勢でしょう?」
「た、確かに……」
言われなければ気づかなかったと、ユーグレンが愕然としている。
そしてその意味が脳内に浸透するに連れて、顔に血が集まってくるのがわかった。
「愛情があるから……足を揉んで……あのカズンが……」
いつもユーグレンをぞんざいに扱う、カズンが。そしてヨシュアが。
愛情を持って自分の足を。
「そ、そうか……すまない、変な誤解をしてしまったようだ」
もうこれで大丈夫だろうと、ローレンツは頭を下げてそのまま部屋を出ていった。部屋の外すぐで待機するのだろう。
後に残されたのは三人のみ。
「そんなに痛かったのか? これぐらいの力加減なら大丈夫か?」
「あっ、それはっ」
左足を左手で持ち、右手の四本指で甲を支え、親指で足裏を軽く押していく。
気持ちがいい。
「殿下、こちらはどうでしょう。痛くないですか?」
「な、なかなか良いな……!」
反対側の右足では、ヨシュアが足の指の股を指先で軽くつまんで刺激を与えている。
くすぐったいが、これもまた気持ちが良い。
それから5分ほど両足を揉まれまくった後で、攻守を交代することにした。
「愛情ある行為。良い。……だがそれはそれ、だ!」
「ひ……ッ、ああああーっ!!!」
普段、わりと温厚なはずのユーグレンは恨みを忘れていなかった。
自分がされたのと同じくらいの力加減で、交代で椅子に座ったカズンの左の足裏を思いっきり親指で押した。
「やっ、やだっ、やめて、ユーグレンお願いだから!」
「お前さっき同じこと言った私にやめてくれなかっただろ」
「だってこんなに痛いとおもわなかったんだあっ!」
「………………」
また右足担当のヨシュアは、黙々とカズンの足裏を揉んでいた。
(こ、この流れはもしや、オレもされてしまうんだろうか……)
内心冷や汗を流しながら、途中で飲み物を持ってくるとか何とか言って逃げ出そうと算段していたのだが。
案の定、すぐ交代させられ、良い笑顔のユーグレンに力いっぱい足裏を押され、絶叫することになるヨシュアなのだった。
「あー、その、殿下たち? あまり激しい行為は謹んでいただけると」
翌日、わかってる癖にユーグレンの護衛ローレンツにそんなことを言われてしまった三人だった。
王都でならそれぞれの自宅や王宮で侍従にやらせるものだが、学園生の彼らは武術の授業でクールダウン方法と一緒に習っているため、一通り自分でもできるようになっている。
「家にいたとき、うちのお母様がお父様にして差し上げてたのだが」
言ってカズンがユーグレンを安楽椅子に座らせて、自分はその前に跪いて、裸足のままの片足、左足を掴んだ。
で、足裏を親指の先で押した。力いっぱい。
「い……っ!?」
「お母様の出身、タイアド王国は家族同士で手や足を揉んでやる習慣があるんだそうだ。スキンシップにもなるし、健康状態もわかる」
「ああ、そういえば昔からセシリア様、やってましたねえ。よくカズン様のお手々をにぎにぎされてました」
どれどれ、とヨシュアも自分のストレッチを切り上げて、ユーグレンの足元に跪き、カズンの反対側、右足を掴む。
「ま、待ってくれ、まさか二人がかりでやる気か!?」
ユーグレンが悲鳴のような声を上げて逃げ出そうとしたが、足を二人に掴まれて動けなかった。
「どうやるんです?」
「足の指から踵、足首、だいたい膝の上あたりまで満遍なく押して揉んでさすってだ。特に足裏は念入りに……こう」
「うおっ」
「こう……ですか?」
「ひぃっ!?」
「そうそう。みかんを押し潰すような感覚で……」
「みかん……ぐじゅっと潰れるようなイメージでしょうか……こう?」
「や、やめろぉっ!」
淡々とやり方を説明するカズン。
ふむふむと頷いてすぐ実践のヨシュア。
絶叫混じりに喘ぐユーグレン。
「お、お二人ともその辺で! ユーグレン殿下がお泣きあそばされております!」
「「え?」」
部屋の隅に控えていたユーグレンの護衛ローレンツの声に、安楽椅子の上のユーグレンを見上げると。
天を仰ぎ両手で顔を覆ってマジ泣きしていた。
「う……ううっ、カズン……ヨシュア……お前たち、そんなにも私が嫌いなら口で言えばいいのだ……こんなひどい、こと……せずとも……っ」
「えええっ、そんな、泣くほどのことはしてないぞ僕は?」
解せぬ、という顔のカズンにローレンツは補足を加えた。
「あのー、カズン様。足裏療法は強い痛みが出ることが多いと聞きますので、できればお手柔らかに」
「えっ!? ……あ、そうか。すまん、ユーグレン。ついお父様の足裏みたいに皮膚の硬い足を相手にするのと同じ感覚でやってた」
普段、革製の軍靴をはいて闊歩する健脚のヴァシレウスの足裏は硬い。すごく硬くて、セシリアも専用の指圧棒を使っていたぐらいだ。
「そんな取ってつけたような言い訳など聞きたくないぃ……っ」
「ユーグレン殿下……申し訳ありません、その……痛かったですね?」
宥めるように持っていたユーグレンの右足に口づけた。
ちゅ、とリップ音を立てて。
「!? ……そ、そんなことで私は誤魔化されないからな、ヨシュア!」
(機嫌直ったな)
(直りましたね)
(ははは、まあ男なんて単純なものです)
「だ、だがもういい、二人とも足を離せ!」
「えっ、まだこれからなんだぞ、ユーグレン?」
「こんな痛いこと続けられて堪るか! 私を揶揄うのもいい加減にしろ!」
「別に揶揄ってなどないが……」
困惑した様子のカズンに、またローレンツが助け舟を出した。
「あー、殿下、殿下? カズン様のお母上の母国タイアドの足揉みはですね、家族や本当に親しいものにしかなさらないものと聞きますよ?」
強引に足をカズンたちの手から引き抜こうとしたユーグレンの身体が、ぴたりと止まる。
「カズン様とヨシュア君の体勢をご覧になってください」
「む」
二人してユーグレンの足元に“跪いて”足を持っている。
「親しい者同士とはいえ、愛情がなければできない体勢でしょう?」
「た、確かに……」
言われなければ気づかなかったと、ユーグレンが愕然としている。
そしてその意味が脳内に浸透するに連れて、顔に血が集まってくるのがわかった。
「愛情があるから……足を揉んで……あのカズンが……」
いつもユーグレンをぞんざいに扱う、カズンが。そしてヨシュアが。
愛情を持って自分の足を。
「そ、そうか……すまない、変な誤解をしてしまったようだ」
もうこれで大丈夫だろうと、ローレンツは頭を下げてそのまま部屋を出ていった。部屋の外すぐで待機するのだろう。
後に残されたのは三人のみ。
「そんなに痛かったのか? これぐらいの力加減なら大丈夫か?」
「あっ、それはっ」
左足を左手で持ち、右手の四本指で甲を支え、親指で足裏を軽く押していく。
気持ちがいい。
「殿下、こちらはどうでしょう。痛くないですか?」
「な、なかなか良いな……!」
反対側の右足では、ヨシュアが足の指の股を指先で軽くつまんで刺激を与えている。
くすぐったいが、これもまた気持ちが良い。
それから5分ほど両足を揉まれまくった後で、攻守を交代することにした。
「愛情ある行為。良い。……だがそれはそれ、だ!」
「ひ……ッ、ああああーっ!!!」
普段、わりと温厚なはずのユーグレンは恨みを忘れていなかった。
自分がされたのと同じくらいの力加減で、交代で椅子に座ったカズンの左の足裏を思いっきり親指で押した。
「やっ、やだっ、やめて、ユーグレンお願いだから!」
「お前さっき同じこと言った私にやめてくれなかっただろ」
「だってこんなに痛いとおもわなかったんだあっ!」
「………………」
また右足担当のヨシュアは、黙々とカズンの足裏を揉んでいた。
(こ、この流れはもしや、オレもされてしまうんだろうか……)
内心冷や汗を流しながら、途中で飲み物を持ってくるとか何とか言って逃げ出そうと算段していたのだが。
案の定、すぐ交代させられ、良い笑顔のユーグレンに力いっぱい足裏を押され、絶叫することになるヨシュアなのだった。
「あー、その、殿下たち? あまり激しい行為は謹んでいただけると」
翌日、わかってる癖にユーグレンの護衛ローレンツにそんなことを言われてしまった三人だった。