「それで?何をしようと言うのだね」

部員が勢揃い後、いつもと変わらず美琴と七海が率先してティーパーティーの準備を進め、僕らは部室の配置のまま、豪華なダイニングテーブルに座する。

そして開口一番そう切り出したのがナルだった。

「何って?何よ?」

さっきの余熱からか美琴がその言葉に突っかかる。

「いやだからさ、これじゃあいつもの部活と同じじゃんよ。何かレクリエーション敵なもんないのか?何?潮騒部イン秋津家別荘ってか?」

「まぁ、それはそうよね」

ナルの言葉を正論と捉えた美琴が今度は肯定を浮かべている。それは、僕も含めた他3人も同じようで、皆が「う~ん」と唸りをあげている。

「それじゃあ、こういうのはどう?」

そう早くも暗礁に乗りかかった船の舵を切り返したのは美琴だった。

美琴は優雅にティーカップを唇に当てると、少し喉を潤せてから続ける。

「Two Truths and a Lieを改良して、Two Lies and a Truthsってところかしら」

「はぁ?なんだよその、Twoほにゃららとか言う近未来言語は?」

「あなたは日本語も危ういものね」

そうナルに毒づく美琴。しかし、僕にもその英語の意味がわからない。

「和訳すると、2つの本当と1つの嘘って意味よ。その改良版で、2つの嘘と1つの本当ってこと」

なるほど。和訳にされれば何て事のない。しかし、それが何なのかは不明のままだ。

「これはアメリカのゲームなんだけどね。ルールは簡単。これから1人が親となって、その親は、自分自身についての2つの真実と1つの本当を発表する。それに他のメンバーが質問して、どれが嘘を当てるというシンプルなものよ」

美琴はそこまで説明して再び紅茶を嗜む。

「つまり。その改良版ってことで、親は2つの嘘と1つの真実を発表して、残りのメンバーでその真実を暴くということ?」

「まぁ。そういうことね。でも、それだけじゃ改良版というよりは劣化版ね。ここからが本場のものとは大きく違うところよ」

美琴は椅子を引いてテーブルとの距離を少し縮めると、クールな表情は崩さずに続けて口を開く。

「今回は、まず1人ずつ2つの噓と1つの真実を発表する。そして、その発表内容はこれからの夢というか、実現したいことについて。そして残りのメンバーはそれについて追及することはしない。それからそれぞれ口にした実現したいことは、近い将来、絶対に実現させること。その時が答え合わせになるということね。つまり、実現したいことは、自らの行動で可能な範囲だけ。そのフェイクと真実を発表するってわけね」

つまり有言実行できる願いを1つ、実行できるがするつもりのないこと2つをこれからそれぞれが発表する。

それについて質問等などの追及はしない。

そして1つの真実を近い将来に実現しなければならない。ということらしい。

「いやさ、理解はできたけどよ、それはゲームとしてどうなんよ?」

僕も引っ掛かっていた部分を代わりにナルが指摘してくれる。

「まぁゲームとは謳ってはいるけど、合宿ってスキルアップの場よね? なら、それぞれが恐らく抱えているであろう些細な希望でも、有言実行という形で見れれば、きっと自信になると思うの。そう思わない?」

「うん。その気持ち分かるかも」

美琴の案に頷く椿は、自分の膝の上で重ねた両手を祈りを捧げるようにして握る。

「こうなればいい。こうしたいって常に考えていて、考えていただけで、願うだけで何も行動することもなかった。そんなんじゃいくら変わろうと思っても、変わるはずだったで、終わっちゃうよね。もうそんな過ちなんて嫌だな」

きっと皆が同じ過去を思い返しているだろう。薄い記憶の中を手探りで漂う僕でもそうなのだから。

「まぁ、いいんじゃないか?なんというか普段なら絶対にしないだろうし、この機会にちょっと変わった部活ってのも悪くないしさ」

呆気らかんと言い放つナルに賛同するかのように僕らは互いに視線を合わせた。

「うっし!じゃあ誰からにする?」

「まぁこういう時は言い出しっぺからって相場が決まっているのよね。ってことでナルよろしく」

「はぁ!? いやいや待ちなさいよ。言い出しっぺの理論上、ここは美琴さん?あなたじゃなくて!?」

「いや、暇だな~何かないかな~って言い出したのはアンタでしょ? あの一言がなければこうなってなかったんだし。そういう意味ではアンタでしょ?」

「言い返したいけど、語彙力を紅茶と一緒に飲み込んでしまったぜ!フッ!」

「いいから切り込み隊長よろしく」

「はい」

という美琴とナルの漫才が終ったところで、潮騒部合宿が幕を開けようとしていた。