横並びで座席につく。ドア間近の隅っこの席。僕、椿、七海の順に並んでいた。
それはいい。それはいいのだが、妙に椿が僕に密着してくる。逆側の手すりに肩が強く当たるほどに密着している。
夏休みということもあり、いつもより車内は混みあってはいるのだが、それにしても大袈裟に僕の方へ詰めよってくる。
しかしその犯人は椿ではなく七海だ。
七海の隣は拳3つ分くらいの余裕はありそうだ。しかし、ぐいぐいと七海を押すようにして僕側に詰めているのだ。
「ちょ、ちょっと七海。詰めすぎだってば」
小声ではなしても充分に聞こえるであろう距離。息づかいまできこえそうな距離。斜め下の椿の横顔を覗けば、熱さからか、この状況からか顔を赤く染めている。
「仕様がないでしょ。他の人もいっぱいいるんだから、少しでも座れるようにスペースを空けなきゃだし」
そう悪戯っ子のように口角をあげる七海に、理由が分からぬ意図を見る。
「そうかもしれないけど、これはあまりに………」
「あれれ?椿ねぇ。もしかして照れてる?意識しちゃってる?」
「バカっ。何の話」
そんな姉妹の会話は漏れなく僕の耳にも届いてくる。
おかげで流れ弾的に飛んできた言葉に、僕も意識してしまう始末だ。
「ごめんね刹那くん。狭いよね?」
「え?あ、ううん。大丈夫だよ。大丈夫」
動揺を隠そうとしても、舌はうまく回ってくれない。熱さのせいで脳も機能を停止してしまっているようだ。
「ほらほら。刹那先輩も満更でもなさそうだし。ひしし」
今度は小悪党のように口元を手で隠すように笑う七海から、その行動の意図を読み取る事ができた。
どうやらどういう風の吹きまわしか、椿と僕の間を取り持とうとしているらしい。
先日の急な問いも相まって、その強引さが目に余る。
なるほど。先日の質問の意味は、七海が僕を意識しているというよりは、椿が僕を………。いや、待とう。そんな憶測をしては、椿とうまく話せなくなってしまいそうだ。
もしかして、こんな風に意識させる事自体が七海の描いたシナリオではないだろうか?
「もう。七海。本気で怒るよ」
「ちょ、ちょっとした冗談だってば、椿ねぇ」
「七海?」
「ご、ごめんなさい」
しかしそんな小悪党七海も、椿の静かな圧に退かざる終えず、少し窮屈で色んな意味で茹だる移動時間は終わりを告げた。
初めて降車した駅。過疎ってはいないが、栄えているわけでもない。
ロータリーというほど立派なものはない。駐車場だけは無駄に広い。
「うーん!久しぶりに来たー!」
七海はそんな光景を夏風と一緒に吸い込むように大きく深呼吸をしている。
「えっとね。あの道を真っ直ぐ行けば、海沿いに出られるだよね?」
椿は念のためにと、スマートフォンのマップ機能を使い、別荘までのルートを確認している。
「数駅離れただけなのに、こんなに雰囲気が変わるんだね」
「あれ?刹那先輩?ここが田舎だっていいたいんですか?」
「そういう意味じゃないよ。ただそれぞれの駅には、それぞれの味があるんだねって。これは当たり前かもしれないけど」
七海は「ふ~ん」と鼻を鳴らした。
「でも、天津町では、天津駅だけが栄えていて、他はだいたいこんなもんですよ」
「へぇ~そうなんだ」
この会話で気づいた。僕は天津駅に越してきてから、天津中心部から出た事がなかった。
そう思えば、この数駅だけの旅路も大冒険のように思える。
「よし!じゃあ早速行こう!!」
一通りマップで道順を確認した椿は、スーツケースをコロコロと引きずりながら先頭を歩く。
「それにしても結構凄い荷物だね。そっちの鞄は僕が持つよ」
そう椿が肩にかけたボストンバッグに手を伸ばす。
「え?でも、そんなの悪いよ」
「いいじゃん!いいじゃん!持ってもらいなよ!あ、ついでに私のも!」
そういって七海は自分のリュックサックを僕へ預けてくる。
「え?ちょ、ちょっと」
有無も云わさぬ行動に逆らえずにリュックサックを手に取る。
幸い重さはそこまでではなく、僕は自分の荷物で埋まった背中ではなく、胸の方へと抱えるようにしてリュックサックを背負う。
「ちょっと七海!」
「あ、はい。椿も」
僕はまだ余裕のある右手を再び椿の方へと伸ばす。
「いや、でも」
「ほらほら、男心を分かってあげないとさ!」
それでもまだ渋る椿の手から強引にバッグを奪い取ると、僕の右手へと誘導する七海。
「ごめんね。重かったら直ぐに言ってね!七海に持たせるから!」
眉を垂れさせ申し訳なさそうに顔の前で両手を合わせる椿。
正直ボストンバッグの重量は重いと感じるほど。しかし、自分で言った手前、凛と構えようと努力することにした。
それはいい。それはいいのだが、妙に椿が僕に密着してくる。逆側の手すりに肩が強く当たるほどに密着している。
夏休みということもあり、いつもより車内は混みあってはいるのだが、それにしても大袈裟に僕の方へ詰めよってくる。
しかしその犯人は椿ではなく七海だ。
七海の隣は拳3つ分くらいの余裕はありそうだ。しかし、ぐいぐいと七海を押すようにして僕側に詰めているのだ。
「ちょ、ちょっと七海。詰めすぎだってば」
小声ではなしても充分に聞こえるであろう距離。息づかいまできこえそうな距離。斜め下の椿の横顔を覗けば、熱さからか、この状況からか顔を赤く染めている。
「仕様がないでしょ。他の人もいっぱいいるんだから、少しでも座れるようにスペースを空けなきゃだし」
そう悪戯っ子のように口角をあげる七海に、理由が分からぬ意図を見る。
「そうかもしれないけど、これはあまりに………」
「あれれ?椿ねぇ。もしかして照れてる?意識しちゃってる?」
「バカっ。何の話」
そんな姉妹の会話は漏れなく僕の耳にも届いてくる。
おかげで流れ弾的に飛んできた言葉に、僕も意識してしまう始末だ。
「ごめんね刹那くん。狭いよね?」
「え?あ、ううん。大丈夫だよ。大丈夫」
動揺を隠そうとしても、舌はうまく回ってくれない。熱さのせいで脳も機能を停止してしまっているようだ。
「ほらほら。刹那先輩も満更でもなさそうだし。ひしし」
今度は小悪党のように口元を手で隠すように笑う七海から、その行動の意図を読み取る事ができた。
どうやらどういう風の吹きまわしか、椿と僕の間を取り持とうとしているらしい。
先日の急な問いも相まって、その強引さが目に余る。
なるほど。先日の質問の意味は、七海が僕を意識しているというよりは、椿が僕を………。いや、待とう。そんな憶測をしては、椿とうまく話せなくなってしまいそうだ。
もしかして、こんな風に意識させる事自体が七海の描いたシナリオではないだろうか?
「もう。七海。本気で怒るよ」
「ちょ、ちょっとした冗談だってば、椿ねぇ」
「七海?」
「ご、ごめんなさい」
しかしそんな小悪党七海も、椿の静かな圧に退かざる終えず、少し窮屈で色んな意味で茹だる移動時間は終わりを告げた。
初めて降車した駅。過疎ってはいないが、栄えているわけでもない。
ロータリーというほど立派なものはない。駐車場だけは無駄に広い。
「うーん!久しぶりに来たー!」
七海はそんな光景を夏風と一緒に吸い込むように大きく深呼吸をしている。
「えっとね。あの道を真っ直ぐ行けば、海沿いに出られるだよね?」
椿は念のためにと、スマートフォンのマップ機能を使い、別荘までのルートを確認している。
「数駅離れただけなのに、こんなに雰囲気が変わるんだね」
「あれ?刹那先輩?ここが田舎だっていいたいんですか?」
「そういう意味じゃないよ。ただそれぞれの駅には、それぞれの味があるんだねって。これは当たり前かもしれないけど」
七海は「ふ~ん」と鼻を鳴らした。
「でも、天津町では、天津駅だけが栄えていて、他はだいたいこんなもんですよ」
「へぇ~そうなんだ」
この会話で気づいた。僕は天津駅に越してきてから、天津中心部から出た事がなかった。
そう思えば、この数駅だけの旅路も大冒険のように思える。
「よし!じゃあ早速行こう!!」
一通りマップで道順を確認した椿は、スーツケースをコロコロと引きずりながら先頭を歩く。
「それにしても結構凄い荷物だね。そっちの鞄は僕が持つよ」
そう椿が肩にかけたボストンバッグに手を伸ばす。
「え?でも、そんなの悪いよ」
「いいじゃん!いいじゃん!持ってもらいなよ!あ、ついでに私のも!」
そういって七海は自分のリュックサックを僕へ預けてくる。
「え?ちょ、ちょっと」
有無も云わさぬ行動に逆らえずにリュックサックを手に取る。
幸い重さはそこまでではなく、僕は自分の荷物で埋まった背中ではなく、胸の方へと抱えるようにしてリュックサックを背負う。
「ちょっと七海!」
「あ、はい。椿も」
僕はまだ余裕のある右手を再び椿の方へと伸ばす。
「いや、でも」
「ほらほら、男心を分かってあげないとさ!」
それでもまだ渋る椿の手から強引にバッグを奪い取ると、僕の右手へと誘導する七海。
「ごめんね。重かったら直ぐに言ってね!七海に持たせるから!」
眉を垂れさせ申し訳なさそうに顔の前で両手を合わせる椿。
正直ボストンバッグの重量は重いと感じるほど。しかし、自分で言った手前、凛と構えようと努力することにした。