ーーーー本格的な夏は高揚感よりも、怠惰感を連れてきたようだ。
茹だる暑さとは、誰が言い出したか分からないがとても言い得て妙だと思う。
夏休みに入りはや2週間。いよいよ合宿当日が訪れた。
同じような日々の繰り返しだった夏休みの中で、唯一と言ってもいいほどのイベント。
そのおかげもあってか、いつもよりすこぶる元気な朝を迎えた僕はそそくさと準備を始める。
遠足前の子供のように寝つけないということはなかったものの、今朝はやけにソワソワする。
それもそのはずだ。友達と外泊することも、そもそも寝食を共にすることも初めての経験、ワクワクと緊張が同居する心臓は感情を制御できていない。
とはいえそんな子供じみた心情は態度や表情に出すことはせずに、淡々と準備を終えた僕はリビングで時間を潰していた。
その間母は、「忘れ物はない?」や「念のために薬をもったら?」や「ちゃんとお礼をするんだよ」や「迷惑かけちゃいけないよ」と心配症を発揮していた。
僕は「大丈夫」と「分かってる」の二言でその場を切り抜けると、時計の針を確認して玄関へと向かう。
学生は夏休みだが、一般的にはそうはいかないため父はもう仕事へ行っているが、母から「気をつけろ」という伝言を受け取ってた。
無口で不器用な父らしいと思った。
母はいつものように玄関まで出迎えに来てくれていたが、まるでこれから僕が独り立ちするかのように寂しそうにするものだから、「行ってきます」と精一杯の元気を振り撒いてみた。
母はそれに答えるようにして「いってらっしゃい。気をつけて」と送り出してくれた。
おかげで僕も一抹の寂しさを覚えながらも、それを払拭するかのように夏風を切って歩き出した。
これからの予定は、まず駅で椿、七海姉妹と合流する。
そして何駅か先で降りて、そこから徒歩で別荘へと向かう流れになっている。
ナルはどうやら図々しくも前乗りをしているらしく、香坂先生も自家用車で少し遅れてくるという事でこのような形になったのだった。
約束の時間まではまだ20分ほどあるところで集合場所に到着する。
そこにはまだ2人の姿はなかった。
それから15分後、わたわたと駆け寄ってくる2つの影に僕は手を振った。
椿と七海が到着したのだ。しかし、それは珍しい光景で、基本15分前くらい余裕をもった行動をする2人からすれば、こんなギリギリに駆け寄る姿は新鮮だ。
「ごめんね!寝坊とかじゃないんだけど、そのなんというか、準備に戸惑っちゃって!!」
「すいません!先輩!椿ねぇが早く着ていく服を決めないものですから!」
「七海だって!ああでもない。こうでもないって、迷っていたじゃん!」
七海は白と水色のフリルのついたワンピースで、持ち前の清楚を存分に発揮している。
それと対照的に七海は、ワンポイントに文字が描かれたシャツに、ショートパンツと目のやり場に困る服装をしている。快活な印象の七海にはお似合いだとは思うが。
「刹那先輩!女の子は褒めてなんぼですよ!!」
いつかの本で読んだようなシチュエーションに直面すると、その物語のように気のきいた台詞なんて浮かんでこない。
「椿も七海も、らしくてとても似合ってるよ!」
そんな嘘ではない言葉で乗り切れるほど現実は甘くはないだろうか?いや、そもそもこのシチュエーションが現実に起きるのが稀なのでは?
そんな僕の心配を他所に、姉妹揃ってもじもじと赤面するものだから、変に意識してしまいそうになる。
少なくとも七海は僕に対して好印象を持っているのでは?という邪が残る僕にとってそれはとても危険な誘惑だ。
「全く。私じゃなくて椿ねぇだけ褒めて下さいよ」
そう口を尖らせる七海の機嫌を取るように、僕は先陣を切って歩きだす。
「よし!じゃあ行こうか!実は結構楽しみで、じっとしてらんないんだよね!」
「先輩って意外とお子ちゃまですね」
「何を言ってるの?七海だって昨日、中々寝つけなそうだったじゃない?遅くまで、部屋の電気ついてたよ?」
「え?いや、私は別に!たまたまだよ!たまたま目が覚めて一旦起きていただけ!………てか、椿ねぇも、そんな事知っているということは、その時間まで起きていたってことだよね?」
「うん!だって楽しみだったんだもん!」
すんなりと認めた椿に七海はまごつく。
「私だって!楽しみでしたよ!」
そうして最後には力のこもった声でそう言い放つと、ずかずかと改札へと向かっていってしまう。
その姿を見て椿と顔を見合せて微笑み合うと、僕たちはホームへと向かった。
茹だる暑さとは、誰が言い出したか分からないがとても言い得て妙だと思う。
夏休みに入りはや2週間。いよいよ合宿当日が訪れた。
同じような日々の繰り返しだった夏休みの中で、唯一と言ってもいいほどのイベント。
そのおかげもあってか、いつもよりすこぶる元気な朝を迎えた僕はそそくさと準備を始める。
遠足前の子供のように寝つけないということはなかったものの、今朝はやけにソワソワする。
それもそのはずだ。友達と外泊することも、そもそも寝食を共にすることも初めての経験、ワクワクと緊張が同居する心臓は感情を制御できていない。
とはいえそんな子供じみた心情は態度や表情に出すことはせずに、淡々と準備を終えた僕はリビングで時間を潰していた。
その間母は、「忘れ物はない?」や「念のために薬をもったら?」や「ちゃんとお礼をするんだよ」や「迷惑かけちゃいけないよ」と心配症を発揮していた。
僕は「大丈夫」と「分かってる」の二言でその場を切り抜けると、時計の針を確認して玄関へと向かう。
学生は夏休みだが、一般的にはそうはいかないため父はもう仕事へ行っているが、母から「気をつけろ」という伝言を受け取ってた。
無口で不器用な父らしいと思った。
母はいつものように玄関まで出迎えに来てくれていたが、まるでこれから僕が独り立ちするかのように寂しそうにするものだから、「行ってきます」と精一杯の元気を振り撒いてみた。
母はそれに答えるようにして「いってらっしゃい。気をつけて」と送り出してくれた。
おかげで僕も一抹の寂しさを覚えながらも、それを払拭するかのように夏風を切って歩き出した。
これからの予定は、まず駅で椿、七海姉妹と合流する。
そして何駅か先で降りて、そこから徒歩で別荘へと向かう流れになっている。
ナルはどうやら図々しくも前乗りをしているらしく、香坂先生も自家用車で少し遅れてくるという事でこのような形になったのだった。
約束の時間まではまだ20分ほどあるところで集合場所に到着する。
そこにはまだ2人の姿はなかった。
それから15分後、わたわたと駆け寄ってくる2つの影に僕は手を振った。
椿と七海が到着したのだ。しかし、それは珍しい光景で、基本15分前くらい余裕をもった行動をする2人からすれば、こんなギリギリに駆け寄る姿は新鮮だ。
「ごめんね!寝坊とかじゃないんだけど、そのなんというか、準備に戸惑っちゃって!!」
「すいません!先輩!椿ねぇが早く着ていく服を決めないものですから!」
「七海だって!ああでもない。こうでもないって、迷っていたじゃん!」
七海は白と水色のフリルのついたワンピースで、持ち前の清楚を存分に発揮している。
それと対照的に七海は、ワンポイントに文字が描かれたシャツに、ショートパンツと目のやり場に困る服装をしている。快活な印象の七海にはお似合いだとは思うが。
「刹那先輩!女の子は褒めてなんぼですよ!!」
いつかの本で読んだようなシチュエーションに直面すると、その物語のように気のきいた台詞なんて浮かんでこない。
「椿も七海も、らしくてとても似合ってるよ!」
そんな嘘ではない言葉で乗り切れるほど現実は甘くはないだろうか?いや、そもそもこのシチュエーションが現実に起きるのが稀なのでは?
そんな僕の心配を他所に、姉妹揃ってもじもじと赤面するものだから、変に意識してしまいそうになる。
少なくとも七海は僕に対して好印象を持っているのでは?という邪が残る僕にとってそれはとても危険な誘惑だ。
「全く。私じゃなくて椿ねぇだけ褒めて下さいよ」
そう口を尖らせる七海の機嫌を取るように、僕は先陣を切って歩きだす。
「よし!じゃあ行こうか!実は結構楽しみで、じっとしてらんないんだよね!」
「先輩って意外とお子ちゃまですね」
「何を言ってるの?七海だって昨日、中々寝つけなそうだったじゃない?遅くまで、部屋の電気ついてたよ?」
「え?いや、私は別に!たまたまだよ!たまたま目が覚めて一旦起きていただけ!………てか、椿ねぇも、そんな事知っているということは、その時間まで起きていたってことだよね?」
「うん!だって楽しみだったんだもん!」
すんなりと認めた椿に七海はまごつく。
「私だって!楽しみでしたよ!」
そうして最後には力のこもった声でそう言い放つと、ずかずかと改札へと向かっていってしまう。
その姿を見て椿と顔を見合せて微笑み合うと、僕たちはホームへと向かった。