ーーー先生との会話を終えた僕は、もう追いつくはずもないだろう4人の背中をイメージする。
そこに僕はいない。居なかった。でも、今は違う。その意味を記すためにも僕は………。
ん?
昇降口まで来ると見慣れた小さな背中が見えた。誰かを待っているかのように、つま先立ちしては地に降り立ち、またつま先立ちをして降り立ちを一定のリズムで繰り返している。
「七海ちゃん?」
僕を待っていてくれた?少し邪な思惑が脳裏にちらつく。
「あ、刹那先輩。お疲れ様です」
「どうしたの?みんなは?」
「あ、えっと…………!そうだ!忘れ物!忘れ物して、私だけ戻ってきたんです!」
絶妙な間が気になったが、それならば合点がいく。
「そうだったんだ。それで、忘れ物はもう取りに行ってきたの?」
「………え?忘れ物?」
ボケッと僕の額の辺りを見つめている七海は、とんちんかんな返答をする。
「え?だって忘れ物を取りにきたんだよね?」
「え?あ、ああ!そ、そうですよ!忘れ物です!大丈夫です!もう取ってきましたから!」
今度はそう前のめりに答えるものだから圧倒されてしまう。
「でも、ちょうど良かった。僕も用事が済んだから、良かったら一緒に帰る?」
「はい!!」
満面の笑みと校舎に響き渡る返事。いつもよりも数倍テンションが高いように感じるのは気のせいだろうか?
2人並んで帰るのは初めてだ。いつもは何気なく近くにいた七海が僕の横に並ぶと、改めて身長差や、歩幅の違いに男女だということを思い知る。
「先生とは何の話を?何か、悪いことをした訳じゃなさそうですし」
「うん。まぁ、ちょっとね」
内容をそのまま伝えるべきなのか悩んだ僕は言葉を濁らせた。
「う~ん。府に落ちませんが、人の会話を根掘り葉掘り聞くような、近所のおばさんとは違いますので、ここで止めておきます」
そう冗談交じりに笑う横顔に安堵する。
「でも良かったです。椿ねぇと仲直りできたみたいですし」
きっと誰よりも僕と椿の仲に気を立てていたのは七海だろう。
「うん。お陰さまで。ずいぶんといろんな展開が重なって、仲直りできるタイミングができたおかげだけどね」
「それでもらそんな展開になったその時に、ちゃんと力を発揮できる刹那先輩はかっこいいです!」
「え?」
初めて面と向かって言われたその「かっこいい」という言葉に柄にもなく照れを隠せずにいた。
「あ、い、いえ!その人間的にとかそういうことです!いえ、もちろん容姿もかっこいいですよ、いやいや、中身ももちろんです」
「う、うん!ありがとう!わかった!わかったから!これ以上は!往来だし!」
「あ…………」
七海は熟したトマトのように頬を染めると視線を落としてしまう。
そんな光景を見ていたら、何だか僕の方は冷静さを取り戻す事ができたようで、周りでこそこそと僕らを見やる人たちの会話が聞こえてくる。
「ちょっと初々しすぎない」
「何あの子、かわいいすぎでしょ」
「彼氏くん、もっとちゃんと反応してあげろよ」
「ヤバい。尊い。あのアオハル尊死する」
いらぬ注目を浴びてしまい、更に顔を地の方に向けてしまう七海。
少し肩が震えていてチラッと見えた瞳が潤んでいるように見えた。
その姿を見て、衝動的に動き出したのは左手で、七海の右手をしっかりと握っている。
そしてそのまま足が向かうままに走り出した。
背後からじゃじゃ馬たちの小さな歓声や、指笛が浴びせられるが、それを今は追い風にするかのようにスピードをあげる。
「せ、先輩!」
切れる息の間に声をあげる七海。僕はその呼び止めにも反応せずにただ走り続けた。いく宛なんてない。それでも走り続けた。
風を切りたどり着いた場所は海を望める高台だった。
通学路から逸れて、民家から少し離れた坂を登った先。屋根のついたベンチとゴミ箱。それ以外にあるのもの、木でできた柵と、見渡す限りの町の風景だけ。
2人で肩で息をしながら、火照った体を通りすぎていく爽やかな涼風に身を任せていた。
「あははっ!!もう!刹那先輩!あははっ!!」
きっとさっきまでの必死な装いをしていた僕を思い出し笑っているのだろう七海。
「ご、ごめん。あんな場所にあれ以上、居られなくてさ」
「あははっ!!すいません。でも、刹那先輩。漫画の主人公みたいだったもので、思わず!っぷふふ」
七海が楽しそうなら何よりなのだが、体育の授業のみでしか体を動かしていなかった僕にとっては、フルマラソンを走った後のような疲労感しか残っていなかった。
無論、フルマラソンなんて実際に走ったこともないので比較することはできないのだが。
「あはは。はぁはぁ。すいません、笑いすぎましたね!はぁはぁ」
一方の七海は走ってきた事よりも、笑いに疲れてしまっているようだった。
そこに僕はいない。居なかった。でも、今は違う。その意味を記すためにも僕は………。
ん?
昇降口まで来ると見慣れた小さな背中が見えた。誰かを待っているかのように、つま先立ちしては地に降り立ち、またつま先立ちをして降り立ちを一定のリズムで繰り返している。
「七海ちゃん?」
僕を待っていてくれた?少し邪な思惑が脳裏にちらつく。
「あ、刹那先輩。お疲れ様です」
「どうしたの?みんなは?」
「あ、えっと…………!そうだ!忘れ物!忘れ物して、私だけ戻ってきたんです!」
絶妙な間が気になったが、それならば合点がいく。
「そうだったんだ。それで、忘れ物はもう取りに行ってきたの?」
「………え?忘れ物?」
ボケッと僕の額の辺りを見つめている七海は、とんちんかんな返答をする。
「え?だって忘れ物を取りにきたんだよね?」
「え?あ、ああ!そ、そうですよ!忘れ物です!大丈夫です!もう取ってきましたから!」
今度はそう前のめりに答えるものだから圧倒されてしまう。
「でも、ちょうど良かった。僕も用事が済んだから、良かったら一緒に帰る?」
「はい!!」
満面の笑みと校舎に響き渡る返事。いつもよりも数倍テンションが高いように感じるのは気のせいだろうか?
2人並んで帰るのは初めてだ。いつもは何気なく近くにいた七海が僕の横に並ぶと、改めて身長差や、歩幅の違いに男女だということを思い知る。
「先生とは何の話を?何か、悪いことをした訳じゃなさそうですし」
「うん。まぁ、ちょっとね」
内容をそのまま伝えるべきなのか悩んだ僕は言葉を濁らせた。
「う~ん。府に落ちませんが、人の会話を根掘り葉掘り聞くような、近所のおばさんとは違いますので、ここで止めておきます」
そう冗談交じりに笑う横顔に安堵する。
「でも良かったです。椿ねぇと仲直りできたみたいですし」
きっと誰よりも僕と椿の仲に気を立てていたのは七海だろう。
「うん。お陰さまで。ずいぶんといろんな展開が重なって、仲直りできるタイミングができたおかげだけどね」
「それでもらそんな展開になったその時に、ちゃんと力を発揮できる刹那先輩はかっこいいです!」
「え?」
初めて面と向かって言われたその「かっこいい」という言葉に柄にもなく照れを隠せずにいた。
「あ、い、いえ!その人間的にとかそういうことです!いえ、もちろん容姿もかっこいいですよ、いやいや、中身ももちろんです」
「う、うん!ありがとう!わかった!わかったから!これ以上は!往来だし!」
「あ…………」
七海は熟したトマトのように頬を染めると視線を落としてしまう。
そんな光景を見ていたら、何だか僕の方は冷静さを取り戻す事ができたようで、周りでこそこそと僕らを見やる人たちの会話が聞こえてくる。
「ちょっと初々しすぎない」
「何あの子、かわいいすぎでしょ」
「彼氏くん、もっとちゃんと反応してあげろよ」
「ヤバい。尊い。あのアオハル尊死する」
いらぬ注目を浴びてしまい、更に顔を地の方に向けてしまう七海。
少し肩が震えていてチラッと見えた瞳が潤んでいるように見えた。
その姿を見て、衝動的に動き出したのは左手で、七海の右手をしっかりと握っている。
そしてそのまま足が向かうままに走り出した。
背後からじゃじゃ馬たちの小さな歓声や、指笛が浴びせられるが、それを今は追い風にするかのようにスピードをあげる。
「せ、先輩!」
切れる息の間に声をあげる七海。僕はその呼び止めにも反応せずにただ走り続けた。いく宛なんてない。それでも走り続けた。
風を切りたどり着いた場所は海を望める高台だった。
通学路から逸れて、民家から少し離れた坂を登った先。屋根のついたベンチとゴミ箱。それ以外にあるのもの、木でできた柵と、見渡す限りの町の風景だけ。
2人で肩で息をしながら、火照った体を通りすぎていく爽やかな涼風に身を任せていた。
「あははっ!!もう!刹那先輩!あははっ!!」
きっとさっきまでの必死な装いをしていた僕を思い出し笑っているのだろう七海。
「ご、ごめん。あんな場所にあれ以上、居られなくてさ」
「あははっ!!すいません。でも、刹那先輩。漫画の主人公みたいだったもので、思わず!っぷふふ」
七海が楽しそうなら何よりなのだが、体育の授業のみでしか体を動かしていなかった僕にとっては、フルマラソンを走った後のような疲労感しか残っていなかった。
無論、フルマラソンなんて実際に走ったこともないので比較することはできないのだが。
「あはは。はぁはぁ。すいません、笑いすぎましたね!はぁはぁ」
一方の七海は走ってきた事よりも、笑いに疲れてしまっているようだった。