ーーー2人と別れ帰路につく。その道中浮かぶのは椿への忸怩たる思いが募る。
椿もまた後悔を育てていて、そんな僕がかけた自責の意は、椿自身を抉るような言葉になってしまったのだろう。
だからこそすぐに謝罪をしなければならない。それなのにかけるべき言葉が見つからない。
こんな風にうじうじと物思いに更けていても、無意識に足は自宅へと体を運んでいた。
両親に勘繰られないように、玄関前で1度深呼吸してから僕は玄関を開けた。
ーーーその夜。空元気が両親に隠し通せたかわからないが、正常を装って日課を終えると、僕は1人暗い部屋でボーッとベッドに仰向けで倒れていた。
暗さに目がなれてうっすらと見上げた天井に美琴の顔が浮かぶ。
明日、明日謝ろう。それですぐに許してもらえないとしても、また前のような潮騒部に戻れるその時まで。
そんな決意を胸に重くなる瞼に身を任せる。
ーーー波の音が聞こえる。ここは?
僕は知らない浜辺に立ち尽くしている。目の前に広がるのはどこまでも続く海で。どこか幻想的に見える。
ここは?夢の中?
所謂明晰夢というやつだろう。今がハッキリと夢だと理解するのに時間はかからなかった。
「こんばんわ。保月刹那くん」
そんな僕の右耳の鼓膜を振動させたのは、そんな小さな男の子のような声だった。
僕はビクリと弾む心臓を落ち着かせながら右隣に目線を向ける。
短髪で活発そうな少年。それが僕の隣にいた男の子に向けた最初の印象だった。
「え?こんばんわ」
とりあえず挨拶を返すと、少年はニコッと無邪気な笑みを浮かべる。
「どう?みんなとは仲良く出来そう?いや違うか。仲直りできそう?」
「え?みんなって。潮騒部の?」
「うん!もちろん!」
「それは………。わからない。わからないけど、また、当たり前の日常を取り戻すためにも、僕は出来ることはするつもりだよ」
見知らぬ少年のその問いに素直に返答する。まぁ、夢だからと割りきって。
「そう。それを聞いて安心したよ。お願いね。僕の代わりに、みんなとは楽しくやってもらわないとね!」
「代わりに?君は………」
君は誰?と聞こうとして口を閉ざす。その言葉を考えて見れば少年が誰なのか想像に難くなかったからだ。
「君は………もしかして。晴也くん?浅井晴也くん?」
僕の言葉に満足そうにまた無邪気さを表す少年。
それが僕の問いに対する答えなのだろう。
「ねぇ、刹那くん」
「え?」
「正直言うとね、僕はもっと生きたかったよ。もっとみんなと居たかったよ。刹那くんの立つ場所に僕も居たかったよ。でも無理なんだ。僕には無理なんだ。だから、代わりに、僕の代わりに刹那くん。みんなと、ずっと仲良くしてね!」
そんな子供心の真っ直ぐな言葉が、鋭利になって僕の心に突き刺さる。
そうだ。僕は思えば浅井晴也に対しての罪悪感で、自分の人生の価値を悲観的に捉えていた。
浅井晴也が望んでいたはずの未来を、そんな無価値で染めようとしていた。
命あるものの務めをふいにしようとしていた。
そんな人生では、浅井晴也に合わせる顔がない。
「うん。分かったよ。その言葉、確かに受け取った。僕は僕の人生と、晴也くん。君の人生を歩くよ。ありがとう」
その僕の言葉に満足したのか、浅井晴也少年の笑みを起点に、景色がホワイトアウトしていく。
ーーー珍しく寝相良く眠れていたようだ。こうして目覚めた先に映る天井がその証拠。
そしてさっきまで見ていた夢を思い出す。
夢というものは自分の深層心理を映すスクリーンだと思う。
きっとあの夢に現れた浅井晴也は本人ではなく、僕が思い描いた浅井晴也なのだろうと思う。
そしてその浅井晴也が話していた言葉。それは全て深層心理で僕が僕に向けた言葉。
それが正解だとか不正解だとかどうでもいい。それが僕が欲しかった言葉だった。ただそれだけでいい。
気持ち目覚めがいつもよりも良いような気がする。
そのスッキリとした頭で思うのは、椿とちゃんと向き合おうという決意だ。
軽い足取りで階段を下りて、洗面所で顔を洗うとリビングへ向かい、ここ数日間で一番弾けた声で挨拶をする。
その挨拶に、母は察したように「おはよう」と笑い、父はチラっと新聞から目を逸らし僕を見る。
後ろ向きな自分はもういないとは言えないが、少なくとも今日は前向きに生きていけそうなそんな気がする。
そうやって意気揚々と迎えた朝に背中を押されるようにして、登校した僕は隣の席にいるはずの椿の姿を探した。
椿もまた後悔を育てていて、そんな僕がかけた自責の意は、椿自身を抉るような言葉になってしまったのだろう。
だからこそすぐに謝罪をしなければならない。それなのにかけるべき言葉が見つからない。
こんな風にうじうじと物思いに更けていても、無意識に足は自宅へと体を運んでいた。
両親に勘繰られないように、玄関前で1度深呼吸してから僕は玄関を開けた。
ーーーその夜。空元気が両親に隠し通せたかわからないが、正常を装って日課を終えると、僕は1人暗い部屋でボーッとベッドに仰向けで倒れていた。
暗さに目がなれてうっすらと見上げた天井に美琴の顔が浮かぶ。
明日、明日謝ろう。それですぐに許してもらえないとしても、また前のような潮騒部に戻れるその時まで。
そんな決意を胸に重くなる瞼に身を任せる。
ーーー波の音が聞こえる。ここは?
僕は知らない浜辺に立ち尽くしている。目の前に広がるのはどこまでも続く海で。どこか幻想的に見える。
ここは?夢の中?
所謂明晰夢というやつだろう。今がハッキリと夢だと理解するのに時間はかからなかった。
「こんばんわ。保月刹那くん」
そんな僕の右耳の鼓膜を振動させたのは、そんな小さな男の子のような声だった。
僕はビクリと弾む心臓を落ち着かせながら右隣に目線を向ける。
短髪で活発そうな少年。それが僕の隣にいた男の子に向けた最初の印象だった。
「え?こんばんわ」
とりあえず挨拶を返すと、少年はニコッと無邪気な笑みを浮かべる。
「どう?みんなとは仲良く出来そう?いや違うか。仲直りできそう?」
「え?みんなって。潮騒部の?」
「うん!もちろん!」
「それは………。わからない。わからないけど、また、当たり前の日常を取り戻すためにも、僕は出来ることはするつもりだよ」
見知らぬ少年のその問いに素直に返答する。まぁ、夢だからと割りきって。
「そう。それを聞いて安心したよ。お願いね。僕の代わりに、みんなとは楽しくやってもらわないとね!」
「代わりに?君は………」
君は誰?と聞こうとして口を閉ざす。その言葉を考えて見れば少年が誰なのか想像に難くなかったからだ。
「君は………もしかして。晴也くん?浅井晴也くん?」
僕の言葉に満足そうにまた無邪気さを表す少年。
それが僕の問いに対する答えなのだろう。
「ねぇ、刹那くん」
「え?」
「正直言うとね、僕はもっと生きたかったよ。もっとみんなと居たかったよ。刹那くんの立つ場所に僕も居たかったよ。でも無理なんだ。僕には無理なんだ。だから、代わりに、僕の代わりに刹那くん。みんなと、ずっと仲良くしてね!」
そんな子供心の真っ直ぐな言葉が、鋭利になって僕の心に突き刺さる。
そうだ。僕は思えば浅井晴也に対しての罪悪感で、自分の人生の価値を悲観的に捉えていた。
浅井晴也が望んでいたはずの未来を、そんな無価値で染めようとしていた。
命あるものの務めをふいにしようとしていた。
そんな人生では、浅井晴也に合わせる顔がない。
「うん。分かったよ。その言葉、確かに受け取った。僕は僕の人生と、晴也くん。君の人生を歩くよ。ありがとう」
その僕の言葉に満足したのか、浅井晴也少年の笑みを起点に、景色がホワイトアウトしていく。
ーーー珍しく寝相良く眠れていたようだ。こうして目覚めた先に映る天井がその証拠。
そしてさっきまで見ていた夢を思い出す。
夢というものは自分の深層心理を映すスクリーンだと思う。
きっとあの夢に現れた浅井晴也は本人ではなく、僕が思い描いた浅井晴也なのだろうと思う。
そしてその浅井晴也が話していた言葉。それは全て深層心理で僕が僕に向けた言葉。
それが正解だとか不正解だとかどうでもいい。それが僕が欲しかった言葉だった。ただそれだけでいい。
気持ち目覚めがいつもよりも良いような気がする。
そのスッキリとした頭で思うのは、椿とちゃんと向き合おうという決意だ。
軽い足取りで階段を下りて、洗面所で顔を洗うとリビングへ向かい、ここ数日間で一番弾けた声で挨拶をする。
その挨拶に、母は察したように「おはよう」と笑い、父はチラっと新聞から目を逸らし僕を見る。
後ろ向きな自分はもういないとは言えないが、少なくとも今日は前向きに生きていけそうなそんな気がする。
そうやって意気揚々と迎えた朝に背中を押されるようにして、登校した僕は隣の席にいるはずの椿の姿を探した。