「同じ?」

「私はね。昔から大人っぽいとか、しっかりものって言われてきてね。私自身も一人っ子だったし、みんなといるとさ、なんというか、姉妹が出来たみたいっていうか。お姉ちゃんへの憧れ?みたいなもので、さらに大人っぽく振る舞っていたの。みんなの前ではしっかりもので居たいってね」

そう話す美琴もまた大人っぽい横顔を覗かせている。

「でも肝心な時に大人になれなかった。あの時、ただただ頭が真っ白になって。まるで今見ている全てが現実じゃないように思えて。なんとかなんとか絞り出した答えが、本当の大人達を呼びにいくという行動だった。それも、もう少し早く行動できていれば、あの日からしっかり者だとか、大人っぽいとか言われても、正直ピンと来ないの」

子供心では無理もないと思ったが、その言葉が何の気休めにもならない事は僕にも分かっていた。

「つまりさ、何が言いたいのかって事なんだけどさ。俺たちはそれぞれ自分自身を恨めど、誰かを恨む事はないんだよ。それぞれがそれぞれの自責を担って、ここまで来たんだ」

ナルは弱々しく微笑むと、墓石を見つめていた視線を反転させて遠くを見つめる。

僕もそれに習うようにして視線を追いかけた。

「あぁ」

そしてその視線の先に広がった光景にそう思わず声が漏れる。

高台に位置する墓苑からは、どこまでも続く海が広がって見えた。

それはどこまでも青く。空の青を落とした鏡のようにどこまでも眩しかった。

「こうして、海の見える場所に眠って、晴也は、どんな風にこの景色を見ているのかな?私はね、ここに来る度に思うの。晴也にも、この景色は、私達と同じように映っていたらいいなって。そして、自己満足かもしれないけど、いつかまた、この景色が昔のように見えたなら、それもまた、晴也も同じになるんじゃないかって。同じように見ているんじゃないかって」

背後から流れる風がそんな美琴の言葉を運んでくる。

そこで思う。潮騒部の活動目標でもある「みんなで海にいこう」というもの。

それはきっと浅井晴也も含めた僕たちで、あの日の海へ行こうという意味だったんだと。

即ち。潮騒部は過去との決別ではなく、過去との共存を願って作れたということ。

そう思うと。僕の後ろ向きだった感情が少しずつ浄化していくように思えた。

「うっし!じゃあ次に行こうか!!」

しんみりとした空気を裂くようにナルがパンッとひとつ柏を打つ。

「次?」

「おうよ!さぁ行くぜよ!」

急に土佐弁を活用したナルは、僕の困惑をものともせずに再び歩きだす。

「ごめんね。でも、今日は付き合ってもらってもいいかしら?」

僕を気遣い目を細める美琴。きっと過去を巡る旅を続けようとしているのだろう。

僕にとってもそれを知ることは、先へ進むための必須科目だと、迷いなくナルの後を追った美琴の背中を目指した。

そうやってたどり着いたのは、何の変哲もないこじんまりとした喫茶店だった。

「ここって?」

「いいからいいから!ここは太っ腹な俺が奢ってやるよ!!って言えたらかっこいいんだけどな~」

そう締まりのない言葉尻を喫茶店のドアの鐘の音がカランコロンとかき消していく。

「ここは何でも美味しいから、期待していいわよ」

美琴もまたそれが当たり前のように入店していく。

「えっ!ちょっ!」

僕はあわててその後を追った。この喫茶店は佇まいや、店内の雰囲気から察するに中々の創業だと感じる。

つまり、昔馴染みのお店で良く浅井晴也と共に良くここに来ていた。そう僕は勝手に解釈をしてみる。

落ち着いた店内に、これまた落ち着いたマスター、落ち着いた美琴と、落ち着かないナル。

僕はナルの隣に腰をおろすと、無機質でも味のあるメニュー表を眺める。

珈琲は勿論のこと、コーラフロートやメロンフロートなどのソフトドリンクも充実しており、パスタやパンピザ、サンドイッチにカレーなど食事も申し分なさそうだ。無論、ケーキやパフェなども備えている。

「まぁ、ここに来たらやっぱりナポリタンだよな!ポリタンってなんか近未来っぽい名前出し!」

「いや、それはナポリタンを注文する理由としては、意味不明だけど」

「まぁ、簡単に言えば旨いってことよ」

「近未来の中にそんな浅い意味が隠されていたとはね」

墓苑から引きずった重い気分も、ナルの通常営業に突っ込む事で紛れていく。

「ったく。晩御飯の事も考えないで。私はミルクレープにしようかしら」

美琴もメニュー表も見ずに即決するものだから、1人焦るようにして注文を決める。

オーダーを取りに来た店員にそれぞれが注文を済ませると冷水で一息をついた。

ちなみに結局僕はお財布が寂しいという分けでもないが、お手頃価格なシュガーマーガリントーストなるものを注文してみた。

それからほとんど時間がかからずに、ナルのジンジャーエールと美琴のアイスカフェモカ、僕のアイスティーが到着する。