ーーーー ヒーローになりたかった。
子供の頃、そんな理想を描いては、白昼夢の空へと飛ばしていた。
弱きものを守り、悪を成敗するヒーロー。テレビの中の存在に憧れていた。
でも比較的平和な日常に、ヒーローの必要性なんて皆無で、いつしか大それたそんな夢が、密かな妄想の中へと沈んでいた。
妄想はリアルではない。触れることもできないし、目視することもできない。
それでもその妄想を描いている僕の頭の中では、リアルとは遜色なくそこにあった。
だからこそ、僕はそれを言葉にすることで、文字として投影することで、目視のできるリアルへと変換させようとした。
そうやって流れる年月の中で導きだした僕の夢。
ーーー小説家になりたい
23歳となり、同級生達が就職するのが当たり前になって、中では結婚した人もいて、それでも僕はその夢だけに身を注いでいた。
それは全く成果の出ていない毎日でも充実していると思えるほど。
落ち着いた店内。暖色の明かりに包まれて、芳ばしいコーヒーを口に含み、天井を見上げる。
この行きつけのカフェで、バイト終わりにこうして、推敲をするという日常。
これが僕の至福だった。
パソコンの液晶に浮かぶのは、現在推敲中の、ボーイミーツガールの青春群像劇だ。
我ながら今回は手応えがありそうだと、かなり簡単に組み立てたプロットを頭の中に浮かべる。
まだ書き始めたばかりだが、間違いなく自分史上最高傑作になるだろう。
ヒロインとヒロインの妹を助けるという、子供の頃に描いたヒーロー像を投影した主人公。
在り来たりと言われればそうかもしれないが、僕の全てを詰め込んだこの主人公はきっと、僕の想像を超えた場所まで僕を連れていってくれるだろう。
そんな自画自賛だけで、展覧会を開けそうなほどの自信作。
こんな風に筆が乗っている時というのは、時間の流れ早いようで、あっという間に帰らないければいけない時間になってしまっていた。
軽い足取りで会計を済ませると、まだ夏の面影の残る店外へと足を踏み出した。
駅前にあるカフェから家までの通いなれた帰路につく。
通いなれたということで、何を考えずとも足が勝手に体を運んでくれる。
だからこそ、思考を小説の展望へと繋ぐ事が出来る。
結末はどちらを選択しようか。途中、こういうイベントを入れるのも悪くないだろう。
あえてここで突き放してしまおうか。僕が主人公だとして、ここはどういう想いで、どういう選択をするだろうか。
浮かびあがるストーリーラインが、生き物ように呼吸しているのがわかる。
そうして、クリスマスの並木道のように、一面にイルミネーションを携えて、僕を誘っているようだ。
「待ちなさい!!」
そんな僕の幸せな思考を閉ざしたのは、そんな女性の怒声にも似た叫び声だった。
空に舞う風船と、それに手を伸ばしながら駆け寄ろうとする少年。
歩行者信号は赤色に染まっており、スピードの落ちないトラックが交差点へと近づいてくる。
その一瞬で察した。このままでは少年はトラックに轢かれてしまうだろう。
驚くほど冷静な頭とは裏腹に、俊敏に動きだした体。
間に合うか?いや、恐らく無理だろう。少年を弾き飛ばしたとして、きっと僕は避けられないだろう。
そんな思考を浮かべるも、それは運動神経にまで伝わらない。
ーーーヒーローになりたい
あぁ。そうか。僕はまだやっぱり。子供のままだったんだな。
ブレーキの音が耳をつんざく。少年に手が伸びて押し出した直後、体に一瞬の衝撃。
あっという間に景色が変わる。コンクリートに叩きつけられたであろう僕は、ボンヤリてした視界で、無事に生を繋いだ少年と母親らしき人物の影を捉えると、重くなる瞼に委ねて視界をシャットダウンさせた。
子供の頃、そんな理想を描いては、白昼夢の空へと飛ばしていた。
弱きものを守り、悪を成敗するヒーロー。テレビの中の存在に憧れていた。
でも比較的平和な日常に、ヒーローの必要性なんて皆無で、いつしか大それたそんな夢が、密かな妄想の中へと沈んでいた。
妄想はリアルではない。触れることもできないし、目視することもできない。
それでもその妄想を描いている僕の頭の中では、リアルとは遜色なくそこにあった。
だからこそ、僕はそれを言葉にすることで、文字として投影することで、目視のできるリアルへと変換させようとした。
そうやって流れる年月の中で導きだした僕の夢。
ーーー小説家になりたい
23歳となり、同級生達が就職するのが当たり前になって、中では結婚した人もいて、それでも僕はその夢だけに身を注いでいた。
それは全く成果の出ていない毎日でも充実していると思えるほど。
落ち着いた店内。暖色の明かりに包まれて、芳ばしいコーヒーを口に含み、天井を見上げる。
この行きつけのカフェで、バイト終わりにこうして、推敲をするという日常。
これが僕の至福だった。
パソコンの液晶に浮かぶのは、現在推敲中の、ボーイミーツガールの青春群像劇だ。
我ながら今回は手応えがありそうだと、かなり簡単に組み立てたプロットを頭の中に浮かべる。
まだ書き始めたばかりだが、間違いなく自分史上最高傑作になるだろう。
ヒロインとヒロインの妹を助けるという、子供の頃に描いたヒーロー像を投影した主人公。
在り来たりと言われればそうかもしれないが、僕の全てを詰め込んだこの主人公はきっと、僕の想像を超えた場所まで僕を連れていってくれるだろう。
そんな自画自賛だけで、展覧会を開けそうなほどの自信作。
こんな風に筆が乗っている時というのは、時間の流れ早いようで、あっという間に帰らないければいけない時間になってしまっていた。
軽い足取りで会計を済ませると、まだ夏の面影の残る店外へと足を踏み出した。
駅前にあるカフェから家までの通いなれた帰路につく。
通いなれたということで、何を考えずとも足が勝手に体を運んでくれる。
だからこそ、思考を小説の展望へと繋ぐ事が出来る。
結末はどちらを選択しようか。途中、こういうイベントを入れるのも悪くないだろう。
あえてここで突き放してしまおうか。僕が主人公だとして、ここはどういう想いで、どういう選択をするだろうか。
浮かびあがるストーリーラインが、生き物ように呼吸しているのがわかる。
そうして、クリスマスの並木道のように、一面にイルミネーションを携えて、僕を誘っているようだ。
「待ちなさい!!」
そんな僕の幸せな思考を閉ざしたのは、そんな女性の怒声にも似た叫び声だった。
空に舞う風船と、それに手を伸ばしながら駆け寄ろうとする少年。
歩行者信号は赤色に染まっており、スピードの落ちないトラックが交差点へと近づいてくる。
その一瞬で察した。このままでは少年はトラックに轢かれてしまうだろう。
驚くほど冷静な頭とは裏腹に、俊敏に動きだした体。
間に合うか?いや、恐らく無理だろう。少年を弾き飛ばしたとして、きっと僕は避けられないだろう。
そんな思考を浮かべるも、それは運動神経にまで伝わらない。
ーーーヒーローになりたい
あぁ。そうか。僕はまだやっぱり。子供のままだったんだな。
ブレーキの音が耳をつんざく。少年に手が伸びて押し出した直後、体に一瞬の衝撃。
あっという間に景色が変わる。コンクリートに叩きつけられたであろう僕は、ボンヤリてした視界で、無事に生を繋いだ少年と母親らしき人物の影を捉えると、重くなる瞼に委ねて視界をシャットダウンさせた。