私は夜なら外に出ていいらしい。太陽の光が目に良くないから、とご主人が言っていた。
1匹で外に出るようになったのは、ご主人が一緒に外に出ることが困難になったから。
「お互い『短命』らしいな。」
なんてベッドに寝転んだまま、よく分からないことを言っていた。

夜に出かけるのが日課になった私は大きな建物を見つけた。人間がまばらに出てくる。特に面白いものでもないが、他にすることもないのでこの大きな建物から出てくる人間たちを見ることも日課にした。

しばらく経ったころ、彼女を見かけた。大抵、友達らしき人間と一緒に出てくるのだが、たまに1人で、ある人間と少し距離をとりながらこそこそ歩いている。そして途中で肩を落として距離をとって歩いていた人間とは別の方向に帰っていく。

少し気になって、肩を落として歩く彼女の後をつけてみた。すると、何か言っている。聞き取りづらいが話しかける練習をしているようだ。なるほど、彼女は追いかけていた人間の女性に恋してるらしい。その日から、彼女の独り言を聞くために私もこっそり彼女の後をついて行くようになった。

ある日、ご主人の側でうとうとしていたら、何かに話しかけられた。

「ひとつだけ変えてやる。」

それは神様とか悪魔だとかいうものなんだろう。
ふと、彼女を思い出した。恋をしている可愛らしいあの声で私に話しかけてくれたなら。
ただ、変えれるのはひとつだけ。私が人間の男になろうが、猫のメスになろうが、彼女は私を好きにはならないのだろう。しばらく考えたあと、私が選んだのは『自分の話せる言葉を変える』ことだった。

いざ話せるとなると話しかけるタイミングが分からない。肩を落とす彼女の気持ちが分かった。
そして、半年経つころ彼女がブランコに乗ってるのが見えた。なにやらご機嫌で、近寄ると声をかけてきた。
「あなたの縄張りだった?ごめんね。」
「お気になさらず。それより私の話し相手になってくれないか?」
そう返すと、話しかけてきたくせに彼女はとても驚いていた。私だって人間と話すなんて不思議な出来事だ。だけど彼女と話すことができたのでなんでも良かった。

その日以降、彼女は私に恋の話をするために公園に来るようになった。恋している可愛らしい彼女の声は、片耳しか聞こえない私にも心地よく聴こえた。最近、長く眠るようになった私は彼女の声を思い出しながら眠るのだった。