『猫さん』は私の恋愛対象を知っていたらしい。

予想外で失恋したショックで出ていた涙が引っ込んだ。目を見開く私を正面から見ながら『猫さん』はもう一度、

「君が女性を好きだと知っていたよ。」

と言った。『猫さん』は続ける。

「君が私に声をかけるよりも前から君を知っていたし、君を見たことがある。学校の帰り、妙な距離で人を追いかけていただろう?」

と言った。心当たりがある。私は春頃に好きな人に話しかけるタイミングを掴めず何回か後ろをついて帰っていたことがある。あんないかにもストーカーですというような様子を見ていたのか。驚きすぎて口の中も渇いてきた。何もかも知っていて聞いていたんだ。

「なんで何も言わなかったの?」
とカサついた声で聞いた。知っていたなら言えばいいのに、そんな様子も見せず私の話を聞いていた理由を知りたかった。

「好きなひとの声を聴きたかった。内容はどんなことでも良かったんだ。」

『猫さん』の返事に私の涙は完璧にどこかにいった。