その日も公園に行った。
マフラーをぐるぐる巻きにした私を見て『猫さん』はいつものように
「いらっしゃい。今日も話し相手になってくれないか?」
と言った。早足で少し乱暴にブランコに座った私の隣のブランコに『猫さん』が飛び乗る。
「恋人がいて、引っ越すんだって。」
私は堰を切ったように話し出した。『猫さん』はいつものように真っ直ぐ前を見て、目も合わせず話を聞く。

好きな人が遠くに引っ越すこと。自由で人にとらわれないところが好きだったのに、恋人と一緒に住むために引っ越すなんて、存外普通の人間だと話をした。
醜い言い方とも分かっていた。でも止まらなかった。私が勝手に好きになって勝手に振られただけなのに。

片耳をピクピクさせながら黙って話を聞く『猫さん』に全てを話したくなった。

「私の好きな人、女の子なの。叶わないって思ってた。言わなかったから気づかなかったでしょ?」

話す時にわざと相手は男性かと思うように話してた。私だって普通に叶う恋愛をしていると思いたかったから。「それってあの子?」なんて聞くことのない『猫さん』だからそう話していた。

やけくそになってネタバラシのように言ったら、『猫さん』はゆっくりこちらを向いた。普段は帰るときにしか見ない、青と黄色の目がしっかり私を見ている。

「君が女性を好きなことは知っていたよ。」

『猫さん』はそう言った。