「これからよろしく」
 男が立ち去ったあと、ユウタが私に話しかけてきた。
 ロボットか何かと勘違いしているのだろうか。
 そう思ったが、学習机の上にちょこんと座っているクマのぬいぐるみにも、「仲良くするんだぞー」と話しかけていたので、私の返事は期待していないのだろう。良かった。
 「口」と便宜的に呼んでいる場所はあるが、単なる空気孔であり、私には声を発する機能が備わっていないのだ。

 ユウタは毎日、帰宅後に私に触れた。私の「目」から流れる水をぼんやり見ながら、その日の出来事をぽつりぽつりと話してくれた。
「今日はね、マサトくんに『ネクラ』って言われたけど、泣くのがまんできた。給食のビビンバがおいしかったよ」
「そうじ当番のリーダーやってって言われて、ほんとうはいやだったけど、いやだって言わなかったよ。えらいでしょ。みんなあそんでたけど、ぼくはリーダーだから、そうじがんばったんだ」
 私に話しかけるというよりは、言葉にすることで、自分の気持ちを整理しているようだった。