男が私を担いで運び、右側のドアを通過した。廊下の突き当たりには「ゆうた」と書いてある木の看板が下がったドアがあった。片手で造作もなくドアを開け、部屋に入った男は、ドアのすぐ隣に私を下ろした。そこからは部屋の中がよく見えた。六畳ほどの空間には、正面に窓とベッド、左側にタンスと本棚、右側に学習机があった。
「毎日これに触って、負の感情を吸い取ってもらいなさい」
 男が私を見つめたまま言った。後から部屋に入ってきたユウタが首を傾げる。
「ふのかんじょう?」
「もやもやとか、泣きたいとか、そういうものだ。いいか。決して学校で泣いたりしちゃダメだぞ? その感情は家まで持って帰ってきて、こいつに吸ってもらうんだ。約束できるか?」
 男がユウタに目を向けた。ユウタは少し不安そうな顔で頷いた。
「わかった。がんばってみる」
 その言葉で男の緊張はようやく解けたようだ。顔の筋肉を緩ませ、ユウタの頭をなでた。
「ユウタならできるさ。絶対に」