沈黙に耐えかねた女が口を開いた。女は、私にスプーンを向ける。
「ユウタのことを心配して、担任の先生が校長先生に相談してくれたんだって。そして、国から貸してもらうことになったのが、この機械よ」
「人間じゃないの?」
 ユウタは目を丸くした。
「じゃないの。よく見て。どこも動かないから」
 女に促されて、ユウタが椅子から飛ぶようにして降りた。私に近づくと、至近距離で眺めながら、ぐるりと一周する。
「へえ。ほんとだ。このまん中の、とび出てるとこはなに?」
 ユウタは首を後ろに向けると、女に向かって尋ねた。
「触ってみて」
「え?」
 ユウタが自分の手と私とを、交互に見比べている。
「いいから、やってみて」
 女に言われ、ユウタがおっかなびっくり私に手を当てた。
 かなりの大きさのエネルギーが発生した。急激に内部が冷えていく。「口」から取り込んだ空気は、全てが一瞬で水になる。あっという間に「頭」まで到達した水は、「目」から流れ出した。
「わ……」
 目をしばたたかせながら、ユウタが私を見つめていた。
「どうだ?」
 男がようやく口を開いた。
「なんか、もやもやがなくなったようなかんじがする」
「良かった」
 女が破顔した。私が初めて見た、女の笑顔だった。
「ユウタは正しい人間に戻れる(・・・)ね」