「でもどうしてユウタが……」
 女が両手で顔を覆った。ほどなくして、鼻水を啜る音が聞こえてきた。
「そう悲観的になるなよ。君まで犯罪者予備軍になってしまうぞ」
「冗談でもそんなこと言わないで!」
 女が弾かれたように顔を上げた。目と鼻から液体が滴り落ちていく。男が眉根を寄せた。
「泣くな。みっともない。もう一度やってみろ。さっきは時間が短くて、効果が表れなかったんじゃないか?」
 男が女の手を取り、私の「胸」に押し当てた。男の時よりも大きな電力を感じる。私の内部(からだ)がこぽこぽと音を立てた。
 女の表情が少しずつ柔らかくなっていった。
「でも良かったじゃないか。早くに分かって。これさえあれば、ユウタがこれ以上『正しくない』方向に進むことはない。……君だって、自分の子を犯罪者にしたくはないだろう?」
「もちろん。まだ遅くないはず。まだ小学生だし。今から矯正したら間に合うはず」
 女は、自分に言い聞かせるように「大丈夫」と繰り返した。
 私の「目」からは、とめどなく水が流れ、「足」に落ちていく。「足」で受け止めた水は、私の内部に取り込まれ、温められて、水素と酸素に戻るのだ。
「さあ、ユウタが帰ってくるまでの間に、どうやって説明するか話し合おう」
 男が手を叩き、右側の椅子に腰掛けた。