梱包を解かれた私が見たのは、目の前に立つ人間(ヒト)だった。男と女が一人ずつ。工場で私を組み立てていた人間たちよりも少し年上に見える。三十代後半といったところか。怯えと嫌悪が混じったまなざしをこちらに向けていた。
 二人の奥にはテーブルと椅子が見えた。テーブルは私から見て横長に置かれている。椅子は私と反対側の辺に二つ、右側に一つだ。
 私から目を逸らしながら、女が口を開いた。
「まさか、こんなことになるとはね」
「おい」
 肩を上げて息を吸い込んだ女を、男が咎める。女は男に構わず、思い切り息を吐き出した。
「止めないで。今日は無理。我慢できない。家の中でため息くらい、見逃してよ」
「ユウタのための機械だけど、お前のヒステリーを抑えるのにもぴったりかもな」 
 男が私を指差し、揶揄するように口の端をつり上げた。
「冗談やめてよ!」
 女が金切り声を出す。心底嫌そうな表情を浮かべたあと、私をぎろりと睨んだ。
「君を不快にさせたなら謝るよ。でも、一旦冷静になった方がいい。冗談抜きで。今後の話し合いを有意義にするためにもさ。ほら、ユウタが帰ってくるまであと二十分もない。俺もやるから」
 男が、私の「胸」の真ん中に付いている半球に手を当てた。半球がぼんやりと明るくなる。そこから伝わるものが電力になり、電力が冷気に変化した。「口」から入ってくる空気が、急激に冷やされる。「足」の方から、ぴちゃんと音がした。
 私の内部(からだ)で水ができはじめたのだ。