お父さんの車の後部座席に勢いよく乗り込む。身体中を不愉快な汗が伝う。膝の上に置いた両手は、いつの間にか拳を握っている。
 「居場所が分かるから、一人で外出させても大丈夫だろうと安易に考えていたんだ……。くそっ!」
 「いや、気にかけていなかった僕にも非はある」
 夕陽が差し込む道路を直進しながら、焦りばかりが募っていく。さっきから、片手でお父さんが、マップを見ながら宏太に電話をかけているが、一切応答が返ってこない。
 「宏太は、大丈夫なのかな?」
 「分からない。さっきから全くピンが動いていないんだ。……行ってみるしかない」
 行った先では、一体何が待ち受けているのか。恐怖感もあったが、それよりも宏太が無事かどうかが気に掛かり、怯えている場合ではなかった。

 着いたところは、二階建ての古びたアパートだった。老いた外観が、さらに不気味さを際立たせている。
 『……これでとうとう五十人目! いやーどうなるか、楽しみですねー』
 『今頃、ニュースはこの話題で持ちきりだからな』
 路肩に停車した車から降りると、男性数名の声が、二階から聞こえてきた。どうやら壁が薄いようだ。
 『さっきからずっと電話が鳴っているんですが、大丈夫でしょうか』
 『出なければいいんだ。気にするな』