「行ってらっしゃい。ぼくはテレビでも観てるよ」
 「きっと、胡散臭い病気のことしかやってないぞ」
 宏太が口元を緩めてくれたので、僕は少しほっとした。

 土曜日、僕は居間で宿題をやっていた。
 「あれ、宏太は、どこに行ったの?」
 ダイニングテーブルで文庫本を読んでいたお父さんに話しかける。
 「ああ。なんか頭の中がモヤモヤするから散歩に行ってくる、とか言ってたな」
 きっと、学校に行かないことへの不安が頭の中を満たし、居ても立っても居られなくなったのだろう。それにしても、なぜだかとてつもなく嫌な予感がする。
 「え、まだ帰ってきてないの?」
 「今、夕方の五時か。確かに遅いな。一応キッズ携帯を持たせといたから、居場所を確認してみるか」
 お父さんはテーブルの隅に置かれたスマートフォンに手を伸ばした。
 数秒後、お父さんの顔色がさっと青ざめ、スマートフォンを手に持ったまま硬直してしまった。
 「どうしたの?」
 「……どこだ、ここ」
 スマートフォンを覗いてみると、ここからずいぶんと遠いところで、ピンマークが立ち止まっていた。
 「車で三十分もかかるぞ、ここ。どうやら屋内かもしれない。ちょっと、行ってくる!」
 「ぼ、僕も!」
 服装など気にも留めず、お父さんの後を追うようにして、玄関を出た。