宏太は、金曜日の夜は寝ていたため、あの時出た会話について把握しているのかは判然としなかったが、もしかしたらお父さんが話をしたのかもしれない。
 「なんて、言ってたの?」
 「クラスの生徒に聞いてみます、だってさ。それにしても、あの先生、口調が乱暴で、なかなか態度が悪かったな。まあ朝は忙しそうだし、無理もないか」
 「今日は、学校に行くの?」
 ダイニングテーブルの椅子に腰を下ろしている宏太は左右に首を振った。
 「宏太はしばらく学校には行かないかもしれません、って言っておいたんだ。宏太、心配しなくて大丈夫だからな」
 宏太は、おそるおそるといった様子で、首を縦に振った。学校を休んだことに罪悪感を抱いているのかもしれない。
 「じゃあ、俺、会社行ってくるから」
 行ってらっしゃいの挨拶を背中で受け止めながら、お父さんは玄関に向かった。
 
 「それにしても、朝早いね。学校休むんだから、まだ寝ててもいいんだよ」
 僕は言ってから、もしかしたら嫌味と捉えられてしまうかもしれないと、少し慌てた。
 「心の中がモヤモヤしてて、うまく寝られなかったんだ」
 「それは辛いな。それにしても、一人で学校に行くの、初めてだな。少し、緊張するかも」
 僕たちは今まで、お互い一度も学校を休んだことがなかったので、毎日二人で登校してきた。
 「じゃあ僕も、学校に行ってくるよ」