重たい空気を紛らわそうとしたのか、お父さんはテレビで流れている内容を話の種にした。残念ながら、テレビの内容も充分重たかった。
 「あーこれ、最近よくテレビで見るんだよ。この病気に罹ると、血が繋がっている人のことを忘れてしまうらしいんだ」
 「血が繋がっている人だけか? 何だその特殊な病気は」
 「さあ。僕も全然分からない。怖いよね」 
 「物騒なことばっかだなー、この世界は」
 お父さんはそう言うと、隣の和室の襖を開け、宏太がまだ寝ているかを確認した。珍しく、宏太はなかなか起きなかった。
 「ああ、そうだ。宏太が相談し損ねた夜、『二人でも、駄目かもしれない』なんて言ってたけれど、あれは一体どういう意味なんだ?」
 「さあ、さっぱり分からないな」
 特に隠す理由もないように思えるが、合言葉の件は一応黙っておくことにした。

 「はい、なのでそう言うことで。はい、ありがとうございます。はい、失礼します」
 翌週の月曜日、朝起きて、居間に行くと、お父さんが受話器を置くところだった。
 「おはよう、お父さん。あ、宏太も起きてたんだ、おはよう」
 「お兄ちゃん、おはよう」
 「今な、ちょうど担任の先生に、宏太のことについて、電話してたところなんだ」