「うん。『二人なら、大丈夫』」
 「そうだ、宏太。お兄ちゃんは、宏太を嫌いになんかならない」
 「あれ、宏太くん、どうしたの?」
 教頭先生が、宏太の泣き声を聞きつけたのか、僕たちのところまで歩いてきた。僕は持っていた漢字練習帳を急いで宏太のランドセルにしまう。
 「ほら、言えるか?」
 「うん。せ、先生。ぼくたちは、二人なら、大丈夫」
 「はあ」
 宏太は、なんとかランドセルを背負った。
 僕は、泣き腫らした宏太と手を繋ぎ、少し早歩きで昇降口へと向かった。

 今まで、僕たちは、二人で色々な壁を乗り越えてきた。
野良猫の足が、歩道に設置された排水溝の蓋の網網から抜けなくなってしまった時は、はまってしまった猫の足に、僕の水筒の水をかけ、二人で優しく引っ張り、何とか救助した。
二人で学校から帰っている途中、「こっちに来たら、チョコレート食べられるよ」と、髭面のおじいさんが言ってきた時は、珍しく宏太が、「チョコレートなら家にあります」と発言し、「……ちっ。何だよ」と捨て台詞を吐いたおじいさんを成敗した。
母親が事故で突然この世を去った時は、二人で抱き合いながら散々泣いたけれど、あの合言葉を二人で唱え、何とか立ち直り、前を向いた。
 僕たちは、二人で、困難に立ち向かってきた。毎回、あの合言葉を言い合って、危機を乗り越えてきた。あの合言葉さえあれば、何でもできた。