宏太宛の手紙を僕が読んでいいのか分からず、少し緊張したが、その美しい字を見た途端、僕の頭は真っ白になった。
 「これ……」
 宏太は、後ろに隠し持っていた漢字練習帳を取り出した。
 「この暴言と、似てる」
 くしゃくしゃの漢字練習帳に書かれていた罵詈雑言の筆跡と、その手紙の文字が、重なった。
 「確かに、似てる……」
 「どうやらぼくは、クラスメイトじゃなくて、先生に嫌われていたみたい……」
 それを聞きつけたお父さんが翌日の朝、すぐさま学校に電話をかけた。
 受話器の向こうで、宏太の担任の先生は、明らかに狼狽していたらしい。
 その後、その先生は懲戒処分を受け、別の先生が、宏太の担任の先生となった。

 「ぼくたちさ、大人になったら、何してるのかな」
 学校から家に帰っている途中、宏太が僕に訊ねてきた。
 「もしかしたら、離れ離れになってるかもしれない」
 「そんなこと、あるのかな?」
 「え?」 
 「だってさ、ぼくたち、もう離れられないほど繋がっちゃってるじゃん」
 「お父さんもね」
 僕たち二人は、温かい笑い声を立てた。
 「『三人なら、もっと大丈夫』、か。四人だったら、どうだったんだろうな」
 「……ぼくの本当の両親てさ、いつ、帰ってくるんだろう?」
 現在、血縁忘却症の治し方については、まだ判明していないらしい。
 「きっと、帰ってくるというより、僕たちが、行くんだ」
 宏太は僕を見つめながら、口をぽかんと開けていたが、やがて理解したのか、もう何も聞いてこなかった。
 その場で立ち止まり、空を見上げてみる。
 宏太も僕を真似て、顔を上に向けた。
 まんべんの笑みを浮かべたお母さんと、目が合った気がした。