哀しみが込められたその声は、僕の心を無遠慮に掻き乱した。
 「宏太」
 「ん?」
 「血が繋がってなかったら、大丈夫じゃないのか?」
 僕は震える声をどうにか宏太に届ける。
 「血が繋がってなかったら、兄弟じゃないのか? 今までのことは、なかったことになるのか?」
 「お兄ちゃん……」
 「僕たちは、二人で散々言い合ってきたじゃないか。あの言葉さえあれば、世界だってひっくり返せると、そう思っていたじゃないか。血の繋がりが何だ。そんなことはどうだっていいんだよ。あの言葉さえあれば、僕たちはずっと、繋がっていられる」
 「『二人なら、大丈夫』だろ?」
 お父さんが唐突に、口を挟んできた。
 「……知ってたの?」
 「ああ。お前たちがよく言い合ってたのを、俺は離れて聞いていたよ」
 お父さんに聞かれていたことに驚いたが、恥ずかしくはなかった。
 「お前たちは、本当に、一番の兄弟だよ。世界で一番の兄弟だよ」
 ここにいる誰もが、泣いていた。
 「けどな、一つ良いことを教えてやる」
 お父さんは少し間を空けてから、言う。
 「三人なら、もっと大丈夫だ」

 翌日の日曜日、宏太の担任の先生から、家に手紙が届いた。先生が宏太のことを心配して、送ってくれたのかもしれない。
 「お兄ちゃん、これ見て」
 「うん」