もう外は、真っ暗だった。街灯がまばらに設置されてはいるが、その光はひどく頼りない。
 「……何?」
 「俺たちはな、」
 その後の言葉は、僕の脳に深々と刺さってきた。
 「……血が繋がっていないんだ」
 宏太はお父さんの後ろ姿を見つめた。自分が泣いていることすら、忘れているかのようだった。
 「本当は、言わないでいようと思ってたんだ。けど、宏太は血縁忘却症に罹ったはずなのに、俺たちのことを忘れていない。だから、それを怪しんだ宏太がいつか俺に聞きにくるかもしれない。そう思ったんだ。だから今、話す」
 お父さんは涙声で言う。
 「宏太の本当の両親は、もう、この世には、いない。だから、俺たちが宏太を引き取った」
 どうして宏太の両親がこの世にいないのか、お父さんがこれ以上語ろうとしていないことは、僕にも想像ができた。宏太は、この話を理解しているのだろうか。
 「だから宏太は、俺とも、亡くなった妻とも、和弥とも、血が繋がっていない。……ごめんな、こんなこと話して」
 お父さんの顔は見えなかったが、きっと涙を流しているはずだ。運転中なのに、前がよく見えていないはずだ。
 「じゃあ、ぼくとお兄ちゃんは、繋がって、なかったんだね」