萌々香と菜々香、私たちは一歳違いの姉妹だった。

 私はお姉ちゃんが大好きで大好きで、いつもお姉ちゃんの後をついてまわった。お姉ちゃんも私を可愛がってくれていつも私たちは二人でいて。顔もよく似ていて、一歳違いだからまるで双子のようねと大人たちは微笑んだ。

 違和感に気づいたのは私が小学生になってから。
 大人たちが「仲がいいわねえ」と微笑むだけでなく「萌々香は優秀ね」「この子は本当にいい子だわ」「素敵なお姉さんね」と萌々香を褒めることが増えた。
 お姉ちゃんは要領が良くて何をやらせても上手で、聞き分けがいい。勉強も運動も出来るクラス委員長で、学芸会はいつも主役やヒロインで、友達からも先生からも評判がよかった。
 対して、私はすべてが並。特別に勉強も運動もできるわけでもなく、目立つ場所にいるわけでもなく、学芸会は木の役だった。

 両親は私たちを平等に扱おうとしていたのかもしれないけれど、いつでも誰からも褒められて話題に上る萌々香と、平凡な菜々香ではやはり萌々香の話をしたがった。


 ・・

「こんばんは、ミア」

 出来ればもう彼女と顔を合わせたくなかったのだけど。
 入学式後のパーティーにて。煌びやかなホールで美しく着飾ったアンバー様が私の前に現れた。
「入学おめでとう、これからよろしくね」

 アンバー様が微笑むと、周りの視線が突き刺さる。今まで社交界に顔も出したことのない私にアンバー様が話しかけたから他の令嬢は驚いたようだ。そしてヒソヒソと噂話が聞こえる。

「ねえあのご令嬢はどなた?」
「さあ見たことがないわ……」
「でも、どう見たって……ねえ?」
「同じ色のドレスですのに」

 アンバー様と私は同じ色のドレスを着ていた。アンバー様のドレスは豪華だけれど繊細で、たくさん宝飾がついているのに上品で清楚な水色のドレス。透明感のある彼女によく似合っている。
 それに比べて私のドレスは時代遅れで、ひと昔前に流行った大きなリボンがついている。普段ドレスを着ることなんてなくて、入学式のパーティーで必要だと知り慌てて両親が用意してくれたものだ。どこかの誰かが十年前に作った中古品らしい。

「相談して下さったなら、私がドレスを用意しましたのに」

 周りの声が聞こえたらしいアンバー様は優しい声を出した。その言葉に小さな笑い声と共にヒソヒソ話が広がる。

「本当にひどいドレスですものね」
「アンバー様って本当にお優しいわ」
「でもどうしてアンバー様があんな子を気にかけるのかしら?」
「アンバー様は誰にでも公平な方なのよ」

 耳障りな声を掻き消すように私は言った。

「お心遣いありがとうございます、これからよろしくお願いします」

 形ばかりの挨拶をして私はその場を立ち去った。クスクス笑いはまだ聞こえてくる。

 アンバー様にはわからないのでしょうね。貴女からしたら見るに堪えないこのドレスの大切さを。両親がなんとか工面して贈ってくれた時、どれだけ私が嬉しかったかを。


 ・・


「いつも菜々香は私のお下がりでかわいそうよ」

 小学校三年生になったお姉ちゃんはそう言った。サイズが変わりやすい幼少期、私は確かにお下がりの服が多かった。しかし小学生になって成長がゆるやかになり一歳違いだからそこまでお下がりの服はなかったのだけど
「私の服はいいから菜々香にも服を買ってあげてよ」というお姉ちゃんに両親はいたく感動してすぐに私たちをショッピングセンターに連れて行った。
 それでも私は新しい服を買ってもらえるのは嬉しくて、気に入ったさくらんぼとリボンのついたピンクのワンピースを手に取った。これにしよう、そう思ってママやお姉ちゃんを探していると。

「ねえ菜々香!お揃いにしない?ママ、いいでしょう?」
「もちろんよ、萌々香も買っていいのよ」
「やったあ!私はこれがいい!菜々香はこっちはどう?」

 お姉ちゃんが手にしていたのはさくらんぼとリボンのピンクのワンピースだ。そして、私には色違いのパイナップルとリボンのイエローのワンピースを見せた。

「あらかわいいじゃない」

 私も同じものを手に持っているのに、ママは気づいているのかいないのか。お姉ちゃんに渡された二枚のワンピースをそれぞれの胸に当てて「やっぱり萌々香はピンクが似合うわね」と言った。