とっぷりと陽も落ちた頃、奏多は宿舎の部屋で先程の出来事を思い返していた。

「生きたくない……か」

あの時、発したその言葉は奏多にとって青天の霹靂だった。
奏多は神としての意思ではなく、最後まで自分の意思を貫きたいと願っている。
それでも心のどこかで、それを否定している自分がいることに気づかされた。

「……『破滅の創世』」

だからだろうか――。
奏多にとって、人間として生きたくないと願う気持ちも自分の意思のように感じられた。

三人の神のうち、最強の力を持つとされる神『破滅の創世』は創造物の反抗を絶対に許しはしない。
弁解も反論も必要ない。故に人々は諾々としてそれを受け入れるしかない。
たとえ、この世界が滅ぶ過程で他の――数多の世界が巻き添えを食う可能性があっても、『破滅の創世』は創造物の反抗を絶対に許しはしないだろう。
それは滅びという災厄として、数多の世界に降り注ぐことになるはずだ。

「それでも、俺はこのまま、この世界でみんなと一緒にいたい……」

奏多には躊躇いがある。不安もある。
真実は何よりも残酷な凶刃と化しているのだから。
自分が『破滅の創世』と呼ばれる最強の神の具現である。
その事実は鋭利で、それを知った奏多の心を今も激しく揺さぶっていた。
その時、インターフォンが鳴り響く。

「……誰か来たのか?」

奏多は部屋に鳴り響いたインターホンの音に意識を傾ける。

「あら? 今度は誰かしら?」

奏多の母親が応答するため、インターホンがある部屋へと向かう。
そして、奏多の母親は揺らぐことのない声で問いかけた。

「……はい、どなたですか?」
「夜分、遅くに申し訳ございません。緊急にお伝えしたいことがあります」

インターホンから、司と思われる声が聞こえてきた。
奏多は奏多の母親に連れられて、玄関へと赴く。
そして玄関へと向かうと、ドアを開けて司を出迎える。

「奏多様。突然のご訪問、誠に申し訳ございません」

そこには司だけではなく、『境界線機関』の者達がいた。

「奏多くん、大変です!」
「結愛……どうかしたのか?」

疑問に思う中、奏多はさらにその場に結愛、そして慧と観月がいることに気づいた。

「よく分からないのですが、基地本部に神獣の大軍が迫っているみたいです」

奏多の疑問に、結愛は置かれた状況を説明する。
その時、敵襲を知らせる警報が鳴り響く。
それは不測の事態に備え、夜空を警戒監視していた航空自衛隊の監視小隊からのものだった。

「司様、敵襲です!」

火急を報せる男性の報告に、司は表情を引きしめる。

「敵の戦力は……?」
「地上では神獣の軍勢が跋扈(ばっこ)しています。上空に数名、恐らくは『破滅の創世』の配下の者かと」

偵察機の無線機からの報告。そこからは神獣の軍勢が迫ってくるのが嫌でも見える。
その軍勢が着々と『境界線機関』の基地本部へと近づいていた。