一族の上層部も恐らく、それを理解している。
奇妙な協力関係は、しかし利害の一致という危うい綱引きの上で成立していた。
だからこそ、『境界線機関』の者達は一族の上層部を出し抜ける機会を窺っていた。

「『破滅の創世』の配下達が、この場に滞在できる時間はあと少しだ。それまで持ちこたえるぞ!」

司の号令とともに、戦車部隊は敵と相対する。
相手は神獣達。
神獣がその身を硬化する前に対処する。
こちらに向けた殺意の数は多いが、やってやれない数ではない。
しかし――

「理解できないな。無駄だと分かっていながら、わたし達に歯向かうとは」

リディアの打突。それは相手が攻撃を行うよりも早く繰り出され、そして戦車部隊の最前列をなぎ倒す。

「我らの邪魔をするのなら消し滅ぼす」

ヒュムノスが招くのは無慈悲に蹂躙する雷光。
その暴虐の光は排斥の意図もろとも最前列の戦車部隊を飲み込んだ。
『破滅の創世』の配下達の圧倒的な力量差の前に為す術がない。
それでもこの戦いを投げ捨てることなどできないとばかりに、結愛は思いの丈をぶつける。

「絶対に負けませんよ! 私は奏多くんが……『破滅の創世』様が大好きですから!」
「結愛、敵に近づきすぎないようにね」

観月は警告しつつも、ありったけの力をカードへと籠めた。

「結愛、カードの力を同時に放つわよ!」
「はい、お姉ちゃん、ナイスです! グッジョブです!」

観月の提案に、結愛は表情を喜色に染める。
導くのは起死回生の一手。
観月と結愛は並び立つと、カードを操り、約定を導き出す。

「降り注ぐは星の裁き……!」

その刹那、立ちはだかるヒュムノス達へ無数の強大な岩が流星のごとく降り注ぐ。
観月が振るうカードに宿る力の真骨頂だ。

「行きますよ! 降り注ぐは氷の裁き……!」

さらに氷塊の連射が織り成したところで、結愛は渾身の猛攻を叩き込む。瞬時に氷気が爆発的な力とともに炸裂した。
カードから放たれた無数の強大な岩と氷柱は混ざり合ってヒュムノス達を突き立てようとするが、――全てが無干渉に通り抜けていく。

「無駄だ」
「無駄じゃないですよ! 『破滅の創世』様の配下さん達の意識をこちらに向けさせることに成功しましたから!」

リディアが事実を述べても、結愛は真っ向から向き合う。

「私は最後まで諦めませんよ。だから、奏多くん、私に希望をください。どんなことがあっても、しがみつきたくなる希望を……!」

『破滅の創世』の配下達にできた僅かな隙。今はそれでいいと結愛は噛みしめる。
奏多と一緒なら、どんなに小さな勝機だって掴んでみせるから。

この世界で共に生きる道を選んでほしい。

そう願って、結愛はおずおずと奏多へと手を伸ばしてきた。