神奏のフラグメンツ

「正直、俺だけでは『境界線機関』の者達や女神の配下の者達とやり合うことなんてできないしな」
「そもそも、おまえ達、一族の上層部は、俺達とやり合うつもりはないだろう」

司の意見はもっともだった。
『境界線機関』はこの世界の未来を担う、練度の高い精強な部隊である。
それに今回、司は一族の上層部が有している神の加護に備えて、突入部隊は一族の者達だけで構成している。
猛者ぞろいである『境界線機関』の者達相手に、ヒューゴのみで抗するのは無謀だ。
ましてや、この場には『破滅の創世』の配下達がいる。
それなのに――ヒューゴの表情には動揺の色は一切見られない。
まるで微笑ましい出来事があったように、楽しげな笑みを堪えていた。

「……フォード、気をつけて。あの人、何か、するつもりかも……?」

ヒューゴが、何かを企んでいる――。
その事実を前にして、ビオラの雰囲気が変わる。
揺れるのは憂う瞳。
それは剥き出しの悲哀を帯びているようだった。

「……何か企んでいたとしても、僕達の手で、それを阻止すればいいだけの話だろう」
「……うん、そうだね」

女神に反旗を翻した双子の幹部、フォードとビオラ。
一族の上層部。
その存在を根絶やしにすることは、『破滅の創世』を救える唯一の方法であるというように――。
そう告げる彼らは、明確なる殺意をヒューゴ達に向けていた。

「……ヒューゴか。あいつの言っていることは、すべて裏がありそうだな」
「そうね」

慧の確信めいた言葉に、観月は同意しつつも不安を零す。
あまりにも強引すぎるヒューゴの詐術だったが、結果オーライ。
そう言いたげに、ヒューゴの思惑どおりに事が運んでいるように感じられた。

「でも、この状況で……もし、『破滅の創世』の配下達が現れたら――」

その可能性は、観月の心胆を寒からしめた。
『破滅の創世』の配下達は誰よりも何よりも、一族の者に激しい悪意と殺意を振りまいていた。
『破滅の創世』の配下達は、『破滅の創世』である奏多を連れていこうとしている。
それを確実に成し遂げるために、奏多の『破滅の創世』としての記憶を完全に取り戻そうとしていた。
それが今の戦場の様相。
だが、そこに奏多の――『破滅の創世』の神意を加味すれば、最悪の事態が待つ。

「それが何を指していようともな」

それでも慧は握る銃の柄に力を込める。
視線を決して、フォード達から外さずに弾丸を撃ち込む。

「……まぁ、今の俺達ができることは二つ。暴動を止めること、そして奏多を守ることだけさ」
「……そうね」

世界への影響を止めるためにも、女神の配下の者達からこの世界を守る……それが、今の慧と観月にさし迫りし事態であった。