神奏のフラグメンツ

奏多を取り囲む一族の上層部の者達。
彼らはみな、虚ろな眼差しで、とても正気の沙汰とは思えなかった。

ヒューゴの能力。

死んだ者をアンデット、つまり不死者にすることのできるそれは、この状況下でも絶対的な強さを発揮している。

「皆さん、これ以上は行かせませんよ! 私達にとって、奏多くんは大切な存在です!」
「……結愛!」

亡くなったはずの一族の上層部の者達が、アンデットになって襲いかかろうとしている。
何とか状況を飲み込んだ結愛は、勇気を振り絞り、奏多のもとに向かった。

「奏多様の意思を誇示して、『破滅の創世』様のご帰還を諦めてもらう。此ノ里結愛は、そのための重要な要だ」

現状を把握したヒューゴは唇を噛む。
このまま、悪戯に時間を消費しても平行線だ。
何もしなくては、女神の配下達の前に為す術もなく朽ち果てるだけだろう。
ならば、機先を制した方が確かだ。

「まあ、俺はここで死ぬつもりはないから、できる限りの揺さぶりをかけさせてもらう」

フォード達を、自分達だけで相手取るには危険すぎる。
それが分かっているからこそ、ヒューゴは敢えて、自ら手を出さない。
能力を駆使して、好機が到来するのを待つように距離を取っていく。

「この状況、厄介なこと、この上ないな」

帰趨(きすう)の見えない状況に、慧は考えあぐねる。
『破滅の創世』である奏多の防衛を最重要視せねばならない。
だが、女神の配下達、一族の上層部の思惑。
先手を打とうとも後手に回ろうとも、はっきりとしたことは分からなかった。
だが、それでも――。

「おいおい。浅湖慧、動かなくていいのか? このまま、アンデットたちが奏多様に危害を加えることになっても」
「そんなわけねぇだろう……!」

ヒューゴの冷ややかな言葉に、慧は銃口を向けて断言した。
奏多達を救うために。
もう、逃げ出してはならないと、慧は知っているから。

「司、ここで何としても食い止めるぜ!」
「当然だ」

様々な思いが過りつつも、慧と司は動き出す。

「なら、俺達はそれを利用させてもらうとするかねぇ」

それを聞いたヒューゴは、喜ばしいとばかりに笑んでいる。

「不死のヒューゴ。俺達は、おまえも敵として見なしている」
「ああ、分かっている。だが、俺達と敵対することは、得策ではないだろう。今、この場で別世界の者達、一族の上層部、どちらも相手にするのは分が悪すぎる。『境界線機関』のリーダー様はそう思っているだろうからな」

ヒューゴの的確な指摘に、司は渋い表情を見せる。

「なあ、此ノ里結愛。おまえはどう思う?」
「ほええ……!」

ヒューゴの突然の矛先の変更に、結愛はどうしたらいいのか分からず、あわてふためく。