神奏のフラグメンツ

この世界の存亡を賭けた、世界会合の会場と『境界線機関』の基地。
二つの戦地での防衛戦。
その戦況の厳しさは、会場から消えた人の影だけでなく、立ち並ぶ家屋も計り知れる。
建物はすべて、もぬけの殻だった。

『破滅の創世』の配下達と一族の上層部。
そして、ベアトリーチェとベアトリーチェの配下達。
互いに交錯する思惑。
過酷な運命に立ち向かうため、慧は改めて、前を見据えた。

「ここに来ると分かっているとはいえ、恐らく、持ちこたえるだけで精一杯だな」

慧が抱いていた危惧は現実のものとなった。
何故なら――。

「『破滅の創世』様、お迎えに参りました」

不意に、この場にそぐわない朗らかな声が響く。
慧と観月が慌てて振り向くと、そこには二つの影があった。

「レン……?」 

奏多の姿を認めてから、レンが噛みしめるように恭しく礼をしたからだ。
そして――。

「レン。『破滅の創世』はてっきり、暴動の地にいるものと思っていたが、当てが外れたようじゃ。一族の上層部は、わらわ達と反旗を翻したわらわの配下達を合流させたくないようじゃな」

ベアトリーチェは地上に降り立つと、ふわりと表情を花咲かせる。

「まあ、わらわとしては、『破滅の創世』を連れ戻せるなら、どちらでもいいが」
「えっ……?」

そう吐露した不変の魔女、ベアトリーチェの瞳と奏多の瞳が重なる。
その瞬間、奏多の胸が苦しくて息苦しくなる。
ベアトリーチェの瞳はあまりにも深く、吸い込まれそうだったからだ。
さらに、奏多は胸に苦しくなる。

「なっ……?」

何故なら、レンが奏多の前で膝をついたからだ。
それはさながら、騎士の示す臣従の礼のようだった。

「『破滅の創世』様、ご安心ください。必ずや一族の者の手からお救いいたします」

レンが発した決意の言葉は、刹那の迷いすらなかった。
『破滅の創世』の神命が起点となって、この世界の運命は決まっている。
『破滅の創世』の配下達にとって、『世界の命運』は流れる水そのもの。
絶対者である『破滅の創世』のなすがままでなくてはならない。
だからこそ――。

「『破滅の創世』様。どうか、私達のもとにお戻りください。一族の者は全て、『破滅の創世』様に目を付けて、私欲のために利用しようとしている愚か者です」

最強の力を持つとされる神『破滅の創世』を人という器に封じ込め、神の力を自らの目的に利用する。
その一族の行為は『破滅の創世』のみではなく、他の神全てに対しての裏切りだ。
『破滅の創世』の配下であるレン達にとって、決して看過できない行為だった。

「『破滅の創世』の配下の者は、いつでも『破滅の創世』に忠実じゃな。わらわの配下の者にも見習わせたいのう」

ベアトリーチェが念押しするように言った。