神奏のフラグメンツ

全てを包み込むような温かな光景は、張り詰めていた観月の心を優しく解きほぐす。

――新たな敵の存在が気になるけれど……きっと、大丈夫。
ここからが『私達』の新たな第一歩。

だから、続く言葉は決まっていた。

「結愛、あなた達ならきっと大丈夫。どんな苦難も乗り越えていけるわ」

幼い頃、世界のあらゆることに怯えていた妹は、今ではいつだって勢いで奏多のもとに走って行く。
躊躇うことだって知らない彼女は、まっすぐに生きているのだ。

「絶対に負けないでね」

観月は今はそれでいいと噛みしめながら、穏やかに微笑んだ。
どんなに小さな可能性だって掴んでみせるから。
だから、奏多とともに生きる道を選んでほしい。
それが観月(あね)の心からの願い事だった。

「あの、あの、あのですね」
「結愛……?」

その時、結愛が真剣な眼差しで奏多のもとににじり寄ってくる。
そして、顔を上げて願うように言葉を重ねた。

「……奏多くん、これからも好きでいてくれますか? もし、神様の記憶を完全に取り戻したとしても……あの、あの、私のこと、ずっと好きでいてくれますか?」
「当たり前だろ」

奏多が発した言葉の意味を理解した瞬間、結愛の顔は火が点いたように熱くなった。

「はううっ。……もう一回、もう一回!」

妙な声を上げながら、身をよじった結愛が催促する。

「今のって、当たり前だろ、ってやつか……」
「うわああ、すごい……幸せです……。も、もう一回!」
「当たり前だろ」
「きゃーっ」

張り詰めていた場の空気が温まる。
この瞳に映る花咲く結愛の笑顔が、春の温もりのように感じられて。
奏多は強張っていた表情を緩ませた。

「つーか、このやり取り、いつまでも続きそうだな」
「結愛のことだから、いつまでも続くと思うわ」

満ちていく世界の中で、慧と観月は弟と妹が紡ぐ温かな光景を見守っていた。

奏多と結愛が抱く永久の想い。
その安らぎが、少しでも永くあることを願って。

「ただ、気がかりなのは、暴動に関わっている女神の配下の者達だな。一族の上層部の上部の連中が、総出で暴動の鎮圧に当たっても対処できない状態か」
「そうね……。かなり厄介そうね」

慧の懸念に、透明感のある赤に近い長い髪をなびかせた観月は表情を強張らせる。
神の配下の力は強大だ。
その上、不老不死である。
何かあれば、勝敗の天秤は神の配下達に傾くだろう。

「『破滅の創世』の配下達に追われている状態で、女神の配下の者達が関わっている暴動の鎮圧に当たる。この一件、想像以上に根が深そうだな」

慧は苦々しいという顔でつぶやいた。