神奏のフラグメンツ

「それに余裕がある、もう一つの理由は、おまえ達の方が分かっているんじゃないのか?」

そう口火を切ったヒューゴは、笑みをたたえたままに重ねて問いかけてくる。
微かに。
思考を過ぎる何か。

「もしかして……ここからなら、暴動の現場に近いのか」

状況の把握に務めていた慧は気づく。

「ご名答。そういうことさ」

慧の姿を認めてから、ヒューゴは薄く笑みを浮かべて答えた。

「なるほどな。正直、ヒューゴ達の思惑どおりに事が進むのは気にくわないが、奏多達を守るためだ」

慧は静かに呼気を吐きだした。
この際、一族の上層部の者達に関する疑問は後回しだ。
問題なのは、追跡してきたベアトリーチェ達がこの地域一帯を無差別に攻撃する可能性が高いという点。
そして、別の世界の者達の暴動が、この場所にも飛び火するかもしれないという点だった。
彼らは恐らく、この世界にいる誰も彼もを『破滅の創世』を害する者、と認識しているだろう。

「つーか、その状況だと、俺達はここから即急に離れた方がいいな」

ここには一族の上層部の者達以外にも、一般人がいる。
ベアトリーチェ達が襲来すれば、一般人が巻き添えを食う可能性がある。
ひとまず、慧達は即座に、この場から離れることで帰結した。





「ふー、ようやく解放されました」

会場の外に出ると、結愛は喜色満面に大きく伸びをする。

「んもぉー。皆さん、私たちのこと、引っ張りだこで、私がつまずいても知ったこっちゃない状態だったんですよ」
「それだけ、注目の的だったんだろ」

結愛は一度だけ目を伏せ、そしてまた奏多をまっすぐに見つめた。

「私にとって、奏多くんは奏多くんです。だから、他の神様や『破滅の創世』様の配下さん達、そして、一族の上層部の人達には奏多くんを渡しませんよ」

確かに今こうして、間違いなく奏多は『結愛の幼なじみ』としてこの世界に存在している。 その事実は途方もなく、結愛の心を温める。

「あなたがこの世界にいなきゃ、嫌です」
「結愛……」

その言葉に、奏多の目の奥が熱くなる。
体中の皮膚が鳥肌を立てて、感情の全てが震え出す。

「俺にとっても、結愛は結愛だ」

言葉の意味を理解した瞬間、結愛の顔は火が点いたように熱くなった。

「はううっ。……奏多くん、もう一回、もう一回!」

妙な声を上げながら、身をよじった結愛が催促する。

「結愛は結愛だ」
「うわああ、すごい……幸せです……。も、もう一回!」
「結愛は結愛だ」
「きゃーっ」

止まない雨はない。
明けない夜もない。
奏でる音色はきっと美しく響き渡る。
まるで幼子のように微笑んだ結愛の笑顔は、甘やかな色彩に彩られていた。