「……幸い、アルリット達によって、『境界線機関』の者達の足止めと一族の上層部の者達への奇襲はできています。後は……『破滅の創世』様が、私達のもとに戻って来られたら……」
レンはあくまでも冷静に、奏多に手を差し出す。
促すのではなく、導くように――。
「戻る……」
奏多に生じたのは、胸が軋むような悲しさだけだった。
もし、この場でそれを拒んでも、『破滅の創世』の配下達の動きが変わることはない。
しかし、それは言い換えれば、拒んだ瞬間、今度は結愛達――此ノ里家の者達が狙われることを意味していた。
「俺にとって、結愛達はかけがえのない存在だ」
だが、『破滅の創世』の記憶の再封印が施されたその時――。
結愛から聞いた自身の身に起きた現象と発した言葉は、今も奏多に重くのしかかっている。
奏多は神としての意思ではなく、最後まで自分の意思を貫きたいと願っている。
それでも心のどこかで、それを否定している自分がいることに気づかされた。
「暴動を止めたい。止めたくない。どちらもきっと俺の意思だ」
あまりに複雑すぎる想いに苛まれて、奏多は表情を曇らせる。
奏多の進む明日。
奏多が生きる未来。
そこに奏多の意思があるとしても、それは『破滅の創世』の意思じゃない。
だからこそ、二つに切り離された意思は、一つだった頃に戻ろうとしている。
「それでも、この相克した二つの意思にも救いはあるはずだ」
二つの相反する意思。
それは嘆き、悲しみ、悲鳴だけの意思なんかでは――決してないのだと。
「だから、俺はこのまま、人間として……そして神として生きたい」
人間として行く先でも、神に戻る先でもない。ただ、覚悟だけがそこにある。
「『破滅の創世』様……」
迷いなく、力強く放たれた奏多の言葉に、レンの瞳が細められる。
狂気の中に憐れみを交えて。
「人間として生きたことはお忘れください。神であるあなた様に人の心など、不要なものです」
「人の心……」
その言葉を引き金に、あの日の記憶の断片が奏多に一つの真実を呼び起こす。
『人の心なんて知らなければよかった。知りたくなんてなかった』
音楽室に無機質な声が響く。
知らない記憶。なのに、どうしようもなく現実味を帯びた感覚がある。
それは過去の奏多が零した確かな想いの吐露であった。
――神である『破滅の創世』にとってはただ困惑するしかないその『感情』。
しかし、奏多にとっては大切な人達と紡いだ大事な『感情』だ。
神と人の相違。だからこそ――
「『破滅の創世』様のご意志が戻れば、人の心など、不要なものとして切り捨てることができるでしょう」
「……っ」
その言葉の端々に戦慄を覚えることすら忘れて。
奏多は目の前のレンに、ただただ意識を奪われ続けていた。
レンはあくまでも冷静に、奏多に手を差し出す。
促すのではなく、導くように――。
「戻る……」
奏多に生じたのは、胸が軋むような悲しさだけだった。
もし、この場でそれを拒んでも、『破滅の創世』の配下達の動きが変わることはない。
しかし、それは言い換えれば、拒んだ瞬間、今度は結愛達――此ノ里家の者達が狙われることを意味していた。
「俺にとって、結愛達はかけがえのない存在だ」
だが、『破滅の創世』の記憶の再封印が施されたその時――。
結愛から聞いた自身の身に起きた現象と発した言葉は、今も奏多に重くのしかかっている。
奏多は神としての意思ではなく、最後まで自分の意思を貫きたいと願っている。
それでも心のどこかで、それを否定している自分がいることに気づかされた。
「暴動を止めたい。止めたくない。どちらもきっと俺の意思だ」
あまりに複雑すぎる想いに苛まれて、奏多は表情を曇らせる。
奏多の進む明日。
奏多が生きる未来。
そこに奏多の意思があるとしても、それは『破滅の創世』の意思じゃない。
だからこそ、二つに切り離された意思は、一つだった頃に戻ろうとしている。
「それでも、この相克した二つの意思にも救いはあるはずだ」
二つの相反する意思。
それは嘆き、悲しみ、悲鳴だけの意思なんかでは――決してないのだと。
「だから、俺はこのまま、人間として……そして神として生きたい」
人間として行く先でも、神に戻る先でもない。ただ、覚悟だけがそこにある。
「『破滅の創世』様……」
迷いなく、力強く放たれた奏多の言葉に、レンの瞳が細められる。
狂気の中に憐れみを交えて。
「人間として生きたことはお忘れください。神であるあなた様に人の心など、不要なものです」
「人の心……」
その言葉を引き金に、あの日の記憶の断片が奏多に一つの真実を呼び起こす。
『人の心なんて知らなければよかった。知りたくなんてなかった』
音楽室に無機質な声が響く。
知らない記憶。なのに、どうしようもなく現実味を帯びた感覚がある。
それは過去の奏多が零した確かな想いの吐露であった。
――神である『破滅の創世』にとってはただ困惑するしかないその『感情』。
しかし、奏多にとっては大切な人達と紡いだ大事な『感情』だ。
神と人の相違。だからこそ――
「『破滅の創世』様のご意志が戻れば、人の心など、不要なものとして切り捨てることができるでしょう」
「……っ」
その言葉の端々に戦慄を覚えることすら忘れて。
奏多は目の前のレンに、ただただ意識を奪われ続けていた。



