「ふふっ、前に約束しましたね」

結愛は一度だけ目を伏せ、そしてまた奏多をまっすぐに見つめた。

「私にとって、奏多くんは奏多くんです。だから、他の神様や『破滅の創世』様の配下さん達には奏多くんを渡しませんよ」

数多の思惑が絡み合っている今も、こうして間違いなく、奏多は『結愛の幼なじみ』としてこの世界に存在している。
その事実は途方もなく、結愛の心を温める。

「そして、ヒューゴさんや一族の上層部さん達にも奏多くんを渡しませんよ。奏多くんとずっとずっと一緒にいたいですから!」

結愛は瞳に意志を宿す。
一族の上層部の好き勝手にはさせないと――強い意志を。
決して譲れない想いがあった。

「あなたがこの世界にいなきゃ、嫌です。だから、信じてください。奏多くんの心で見てきたものを。感じたことを。きっと……それが奏多くんの……そして、数多の世界の人達の力になってくれるはずです!」
「俺の心で……」

その言葉に奏多の目の奥が熱くなる。
体中の皮膚が鳥肌を立てて、感情の全てが震え出す。

――そうだ、きっと。
この想いが、多くの人達を救うための第一歩。

だから、言いたい言葉は決まっていた。
これが虚勢であっても構わない。
今はそれでいい。
内側から湧き上がる神の意思なんて、今は聞いていられない。

「俺は、結愛と――みんなと離れたくない。自分自身の手でこの幸せを手離したくない」

奏多は信じている。自分自身の力と未来を。
人は自らの足で歩いている。独りではなく、手を取り合って。

「痛くても苦しくても怖くても、この感情から逃げたくないから」

奏多は聞いていた。数多の旋律を束ね、神奏を天へと放つ。数多の人々の想い。その旋律は永久に紡がれるはずだと。

「俺も……これからも結愛と一緒にいたいからさ」

言葉の意味を理解した瞬間、結愛の顔は火が点いたように熱くなった。

「はううっ。……い、今の、もう一度、言ってください!」

妙な声を上げながら、身をよじった結愛が催促する。

「今のって、結愛と一緒にいたい、ってやつか……」
「うわああ、すごい……幸せです……。も、もう一回!」
「結愛と一緒にいたい」
「きゃーっ」

温かな眼差し。この瞳に映る花咲く結愛の笑顔が春の温もりのように感じられて。
奏多は強張っていた表情を緩ませた。