指先に力が集まり、やがて円形の魔法陣が形成される。
それはゆっくりと回転し、解けたようとしたが。

「悪いな、ヒューゴ! そうはさせねえぜ!」
「くっ……、凄まじいねぇ」

慧は二丁拳銃を乱射し、銃弾をこれでもかと撃ち込んでいく。
荒れ狂う嵐の如き乱射は、確実に緊急脱出装置の動きを妨げる。

「今だ!」
「ええ!」

その隙に、慧と観月は魔法陣の上に滑り込む。
慧の乱射で、緊急脱出装置の発動が遅れた。
その歴然たる事実を前にして、司の取った行動は早かった。

「ヒューゴ、おまえ達の思いどおりにはさせない!」
「……っ」

司がヒューゴを斬り裂く軌道で振るったその重力波は極大に膨れ上がり――それは絶大な威力として示された。
ともに立つ味方には奇跡を、立ちふさがる敵には破滅をもたらす、重力操作能力の本領発揮だった。

「ヒューゴ様……っ!」

そこに一族の上層部の者達が迫る。
だが、司を穿つことはできなかった。
再び、一族の上層部の者達を斬り裂く軌道で振るったその重力波が極大に膨れ上がり――それは絶大な威力として示されたからだ。

「分かっていないな。おまえ達はどう足掻いても、俺達を妨害することはできない」

司は感情を交えず、ただ事実だけを口にする。

「奏多様、こちらへ!」
「結愛、行こう」
「はい、奏多くん」

置かれた状況を踏まえた司は即座に逃げの一手を選ぶ。
迷いも躊躇いもない。
生き延びた『境界線機関』の者達も、奏多と結愛の身を護りながら魔法陣へと雪崩れ込む。

「なっ……!」

リディアは一瞬、追いかけるべきか躊躇う。
だが、その迷った数瞬が明暗を分ける一線だった。

「奏多は絶対に死守するさ」
「奏多様は絶対に護るわ」

慧の確固たる決意に、カードをかざした観月は応えた。

「悪いが、ここから先は行かせねぇぜ」

慧は奏多達が撤退する猶予を作るように発砲した。
絶え間ない攻撃の応酬。
だが、弾は全て塵のように消えていく。
決定打に欠ける連撃。
それでも奏多と結愛の安全さえ確保できれば、慧と観月が懸念する要項が減る。
あとは全力でこの場から離脱するのみ――けれども致命状態には気をつけながら、慧は観月と連携して次の攻撃に移った。

「さて、ここからが踏ん張りどころだ」

司を始め、『境界線機関』の者達も相応の覚悟を持って、この撤退を行っている。

最優先事項は奏多の身の安全――。

『境界線機関』の者達は今回、奏多を守護する任務を帯びている。
その守りは固く、そう簡単には隙は見せない。
しかも、今は緊急脱出装置の魔法陣の上。
防衛戦を仕掛ければ、十分に凌ぐことはできるはずだ。
だからこそ――

「……逃がしたか」

颯爽とその場から姿を消した司達の手際の良さに、リディアは舌を巻く。