「下らないことをするね。一族の上層部の人間は」

アルリットはそう言うと軽く手を振りかざした。

「おっと……厄介だな!」

想定外を前提に動く一族の者達と、狙い通りに立ち回るリディア達では行動の精度が違う。
動線の差は明らかだった。
本来なら、それだけでヒューゴ達は吹き飛ばされただろう。
だが、ヒューゴは手をかざしたことで、その攻撃をなかったことにしたのだ。

「……う……そ……」

ヒューゴが『破滅の創世』の配下達の攻撃を何度も打ち消した。
視界の向こうで展開していた光景は、観月の想像を超えていた。

「攻撃が……」
「ほええ、驚きです。『破滅の創世』様の配下さん達の攻撃がまた、発動しなかったですよ!」

遠巻きから見ていた奏多と結愛も驚愕する。

「つーか、司、これからどうする? さすがにこのまま手をこまねいているわけにはいかねえよな?」

意味深な慧の声音に、司は剣呑に返す。

「当たり前だろう! 俺達は『破滅の創世』様を守護する任務を帯びている!」

司がリディア達を斬り裂く軌道で振るったその重力波は、極大に膨れ上がり――それは絶大な威力として示された。
ヒューゴ達に攻撃が及ばない範囲内で。

「――なっ」

リディアが走らせた瞬間的の感情に、状況は明白となった。

『不死者にする能力』と『攻撃を無効化する能力』。
一族の上層部の一人であるヒューゴは、二つの厄介な能力を持っている。

その歴然たる事実を前にして、司の取った行動は早かった。

「不死のヒューゴ。協力するつもりはないが、今は敵対するつもりもない。奏多様を安全な場所に送り届けるまではな」

置かれた状況を踏まえた司はそう言い放つと、即座に逃げの一手を選ぶ。
迷いも躊躇いもない。
生き延びた『境界線機関』の者達も、奏多と結愛の身を護りながら撤退する。

「奏多は絶対に死守するさ」
「奏多様は絶対に護るわ」

慧の確固たる決意に、カードをかざした観月は応えた。

「悪いが、ここから先は行かせねぇぜ」

慧は奏多達が撤退する猶予を作るように発砲した。
絶え間ない攻撃の応酬。だが、弾は全て塵のように消えていく。
決定打に欠ける連撃。
それでも奏多と結愛の安全さえ確保できれば、慧と観月が懸念する要項が減る。
あとは全力でこの場から離脱するのみ――けれども致命状態には気をつけながら、慧は観月と連携して次の攻撃に移った。

「おっと、協同戦線、張っているんだ。浅湖慧、おまえも俺達に加勢しろよ」
「敵対するつもりはないだけで、おまえ達に加勢するつもりはないぜ」

慧の反応も想定どおりだったというように、ヒューゴの楽しそうな表情は変わらない。