「絶対に負けませんよ! 私は奏多くんが……『破滅の創世』様が大好きですから!」
「結愛、敵に近づきすぎないようにね」

観月は警告しつつも、ありったけの力をカードへと籠めた。

「結愛、カードの力を同時に放って撹乱させるわよ!」
「はい、お姉ちゃん、ナイスです! グッジョブです!」

観月の提案に、結愛は表情を喜色に染める。
導くのは起死回生の一手。
観月と結愛は並び立つと、カードを操り、約定を導き出す。

「降り注ぐは星の裁き……!」

その刹那、立ちはだかるレン達へ無数の強大な岩が流星のごとく降り注ぐ。
観月が振るうカードに宿る力の真骨頂だ。

「行きますよ! 降り注ぐは氷の裁き……!」

さらに氷塊の連射が織り成したところで、結愛は渾身の猛攻を叩き込む。瞬時に氷気が爆発的な力とともに炸裂した。
カードから放たれた無数の強大な岩と氷柱は混ざり合ってレン達を突き立てようとするが、――全てが無干渉に通り抜けていく。

「無駄ですね」
「無駄じゃないですよ! 『破滅の創世』様の配下さん達の意識をこちらに向けさせることに成功しましたから!」

レンが事実を述べても、結愛は真っ向から向き合う。

「それに、この場にいるのは私達だけじゃないですから!」
「ああ。無駄なら、それに対応するまでだ」

奏多は不可視のピアノの鍵盤のようなものを宙に顕現させると軽やかに弾き始めた。
研ぎ澄まされた表情で迅速に、かつ的確に鍵盤を弾いていく。
赤い光からなる音色の猛撃を次々と叩き込む。それは治癒の反転、その彼なりの極致は迫り来る神獣の群れをたじろがせた。

「私は最後まで諦めませんよ。だから、奏多くん、私に希望をください。どんなことがあっても、しがみつきたくなる希望を……!」

『破滅の創世』の配下達にできた僅かな隙。今はそれでいいと結愛は噛みしめる。
奏多と一緒なら、どんなに小さな勝機だって掴んでみせるから。
この世界で共に生きる道を選んでほしい。
そう願って、結愛はおずおずと奏多へと手を伸ばしてきた。

「ああ、俺も最後まで諦めない」

その手を――奏多はしっかりと掴む。繋がれた手の温もりが優しく溶け合っていく。
ありふれたこの瞬間こそが救いなのだと他の誰でもない奏多と結愛だけが知っている。
二人でいれば、世界はどこまでも光で満ちていた。

「……此ノ里結愛さん、あなたは思っていたよりも危険な存在のようですね」

奏多が結愛を救うために割って入ってきた――。
その事実を前にして、レンの雰囲気が変わる。
揺れるのは憂う瞳。それは剥き出しの悲哀を帯びているようだった。