「雄飛司。いい加減、状況を把握しようぜ。まあ、俺はここで死ぬつもりはないから、できる限りの揺さぶりをかけさせてもらう」

現状を把握したヒューゴは唇を噛む。
このまま、悪戯に時間を消費しても平行線だ。
何もしなくては『破滅の創世』の配下達の前に為す術もなく朽ち果てるだけだろう。
ならば、機先を制した方が確かだ。

「『破滅の創世』の配下達の動きを阻害する必要がありそうだな」

アルリット達を――『破滅の創世』の配下達を侮ってはいけない。
これまでの戦績を思えば、その事実は明白である。
そう判断したヒューゴは指示した。
すると間隙を突くように、アンデットに変えられた乗客達はアルリットを包囲する。

「――うん、あたし達の動きを止めるつもりみたいだね」

アルリットは自分を取り囲むアンデットに変えられた乗客達を見る。

「下らないことをするね。一族の上層部の人間は」

アルリットはそう言うと軽く手を振りかざした。
本来なら、それだけでヒューゴ達は吹き飛ばされただろう。
だが、想定外の出来事が起きた。
ヒューゴは手をかざしたことで、その攻撃をなかったことにしたのだ。

「……う……そ……」

ヒューゴがアルリットの攻撃を打ち消した。
視界の向こうで展開していた光景は、観月の想像を超えていた。

「今のは……」
「ほええ、驚きです。『破滅の創世』様の配下さん達の攻撃が発動しなかったですよ!」

遠巻きから見ていた奏多と結愛も驚愕する。
しかし、司はヒューゴが使った異能力について心当たりがあった。

「ヒューゴ。おまえが持っているのは、『不死者にする能力』と『攻撃を無効化する能力』だな?」
「まあな。ただ、条件がややこしくて、なかなか使う機会がないけどな」

司の鋭い問いに、ヒューゴは楽しげに笑みをこぼす。

「攻撃を無効化する能力……。なるほどな」

その言葉の真意を理解した慧は得心した。

「……慧、どういうこと?」

瞳に強い眼差しを宿した観月は慧を見つめる。

「ヒューゴは『不死者にする能力』と『攻撃を無効化する能力』。二つの能力を持っているってわけさ」
「なっ……!」

何処か吹っ切れたような顔をして言う慧の顔を観月は凝視した。
ヒューゴの能力。
死んだ者をアンデット、つまり不死者にすることのできるそれは、あらゆる面で絶対的な強さを発揮する。
さらに条件付きとはいえ、もし『攻撃を無効化する能力』が使えるとしたら――

「まぁ、埒外な能力だな」

慧が苦々しいという顔で語った話に観月は絶句する。
混乱は治まることはなく、むしろ深まっていた。