「怯むな、突撃!」

だが、それでも得物を手にした兵達が次々に突撃を敢行する。
出来る限り、戦線を支え続けることが目的だ。
『破滅の創世』の配下達との戦いはこの世界に未曾有の惨事を引き起こしている。
いずれも絶大な力を有する『破滅の創世』の配下達は、世界に滅びをもたらす存在で在り続けていた。
此度の戦場も、建物が一瞬で崩壊するという蹂躙とでも呼ぶべき景色があった。

「今、わたし達が遂行することは『破滅の創世』様を拠点にお連れすることだ」

リディアが打突したその瞬間、空間が裂けた。

「愚かなものだ。わたし達を分断できると本気で思っているとは」
「ケイ……。今度は確実に消滅させるから」

そう告げるリディアとアルリットは明確なる殺意を慧達に向けていた。
恐るべきは『破滅の創世』の配下の者。この場にいる慧達が相手をするには、あまりにも圧倒的すぎた。
時間を稼ぐことができるかどうか。いや、それまで凌いで撤退に持ち込むことすらできるかどうかだ。

「このままじゃ撤退する前に……」
「全滅しちゃいますよ!」

奏多と結愛が視線を滑らせた先には穏やかならざる空気を纏う戦場。
最低な状況だ、と思っても、さらに底があるのが悲しくも世の常だ。

「もはや、援軍を呼ぶしかなさそうだな」

流石にそう簡単には立ち去ってくれないかと、司は思考を巡らせる。

「慧にーさん……」
「援軍がここに来ると、信じようぜ」

そう告げた慧の表情には先程と同じように確信めいたものがあった。
ここを凌げば、勝機が見えると――。
だからこそ、奏多は逸る思いを押さえながら、その信頼に応えようとする。

「……『破滅の創世』としての記憶。俺は神の記憶がある時の自分がどんな感じなのか分からない」

今まで様々な出来事があった。
ありふれたものや胸を強く打ったもの。
傷痕のように深く残るものもあれば、それらさえも包み込む真綿のような暖かいものもある。
あるいは……。
それらを今、この瞬間、想いとしてぶつけることができるというのなら――。

「それでも、俺は慧にーさんの言葉を信じる!」

きっと奏多は何度でも言うのだろう。
その不屈の果てに、望む未来の光明があると知っているから。

「慧にーさんは俺にとって大切な存在だから!」

奏多は踏み出す勇気を持って歩を進めた。
これが虚勢であっても構わない。今はそれでいい。内側から湧き上がる神の意思なんて、今は聞いていられない。
停滞だけでは何も変わらないことを知っているから。