数日後、ロザリーは長距離列車に乗っていた。見送りはなかった。それが全てだとロザリーは胸に刻む。
これから季節は本格的な冬になるから出来ることなら南へ行ってほしい、という博士の懇願のような助言に従って南下することにした。座席に座ったロザリーがカバンから取り出したのは、博士が持たせてくれたランチボックス。
蓋を開ければ、サンドウィッチと、
「ジャムクッキー……」
自我が芽生え始めてから、好きだったものが嫌いになることが度々あったが、これだけはどうしても嫌いにはならなかった。
「手紙……?」
ランチボックスの蓋の裏に張り付けられた封筒に気づく。白地に小さな赤いバラの絵が描かれた素敵なデザインのそれを、ロザリーは手に取り中の便箋を取り出した。
『親愛なるロザリーへ
きみの門出を笑顔で見送ることができなくてすまない。
直接顔を見てしまえば、引き留めてしまいそうで……。
こうして手紙でさよならすることをどうか許してほしい。
きみがこうしてまだ見ぬ世界に羽ばたいていくことを、僕は誇りに思う。
どこへ行き、何を見て、誰と出会い、どう感じるのだろう。
思う存分、世界を見て感じてきてほしい。
そして、もしきみが望むのなら、いつでもここへ帰っておいで。
僕は、いつまでもきみを待っていると約束するよ。
きみの博士より』
読み終えたロザリーは、角ばった文字を愛おしそうにしばらく指でなぞっていた。