「わたしを追い出す口実なんて何でもいいんだよ……」
交流戦で3勝を取った。
その結果……3年……それも表向きには最強と言われる生徒会との対戦。
そんな、明らかに結果の見えている戦いで……
俺は、教師《フレア》に、この試合の結果はクラスの解散に繋がらないのだろうと尋ねたが……
「……わたしを追い出す理由、クラスを解散させる理由……そんなものはどうとでもでっちあげられる」
そうフレアが俺に言った。
翌日の3年生徒会との交流戦……
この現状を作り上げたのも、それを望む誰かなのだろうか……
交流戦……参加は昨日のダブル戦に参加した6名に限られる。
だが、俺の特別クラスは3戦を全て俺が出場している。
結果、出場できるのは……
俺と、ヴァニとクロハとレインの4名。
初戦がヴァニ。
次戦にクロハ。
決戦にレス。
そう選択された。
生徒会……脅威なのは生徒会長であるスコール。
他力本願ではあるが……初戦と次戦で2勝を取ってもらう。
それが……今回出せる最良な作戦だ。
昨日に続いて、俺とヴァニ、クロハの3名はリングに整列している。
対峙するように並んでいるのは3学年生徒会長 スコール=アクア
眼鏡をかけたポニーテールの黒髪女子……2学年副会長 ツキヨ=アリアケ
クロハ二人分の体格の男…3学年書記(?) ストーン=ハガー
先鋒戦……
ヴァニとストーンがリング上に残る。
勝手なイメージだが……とても、書記というような繊細な役職者とは思えない男。
そこそこの力自慢のヴァニさえも一回り小さく見える。
「それじゃ、生徒会VS1学年特別クラスの先鋒戦をはじめるよぉー!」
引き続きラビ=ホストが司会進行をつとめている。
「試合開始ぃーーーッ」
その合図と共に先に動いたのはヴァニ……ストーンの元に恐れることなく直進し、その移動の際に魔力武装を開放し腕に手甲を装着する。
ストーンはその場から一歩も動かず……何一つ抵抗することなくヴァニの一撃が 左の頬を捉える。
ストーンは一歩も動くことなく……
「うん、実にいいパンチだ……昨日見ていたとおり、実に気持ちの良い一撃だ」
そうヴァニに告げる。
「どうだ……1年、見たところお前も俺と同じで、相手の攻撃を避けたり、相手の行動を読んだり難しいことは苦手そうだ、そこで一つ提案だがな、攻撃方法はどんなものでもかまわねぇ、交代でお互いに自分の持つ一撃を受け、どちらが立ち続けていられるか……根競べといかねーか?」
そう、にやりと笑った。
「あぁ……別にそれでいいぜ」
ヴァニは安易にそれを受け入れる。
「だったら、先輩、あんたの番だ……そのつもりで俺の一撃を黙って受けたんだろ」
そうヴァニがストーンに返す。
「あぁ……だったらっ」
ヴァニと同じように右手を振り上げ、ヴァニの顔面目掛け振り下げた。
1歩後ろに下がり、踏みとどまる。
が……少し足に来ているのが外からでもわかる。
まるで、RPGのように、お互いに交互にただの攻撃コマンドを互いに繰り返すように、攻撃を受け耐えては、相手に攻撃をすることを繰り返す。
数十回にも及ぶその繰り返し……
同じようにRPGで例えるなら、攻撃力とHPと防御力の計算になる。
攻撃力に置いては、魔力の武装具がある分、ヴァニが有利だろう。
HPと防御力に置くとストーンに分があるのだろう。
見るからに先に限界を迎えるのはヴァニの方だ。
明らかに相手の一撃を受けるたびに、踏みとどまってることがやっとで……
気を抜けば崩れ落ちそうだった。
そして、体力の消耗に比例するように……ヴァニの攻撃の制度も落ちている。
そして……何よりも……あのストーンという男はその能力を開放していない。
その能力値が、あの体力と防御力に振られていたとして……
あの素手以外に攻撃手段を持っているとしたら……
……そんな悪い予感は……
「そんじゃ、そろそろ……本気でいくぜ」
ストーンがそう言うと……石の棍棒が握られている。
棍棒を振り上げ、ヴァニの元に振り下ろされる。
思わず数名が目を反らしてしまうような光景。
地面が崩れ……そのリングにあいた穴にヴァニが埋め込まれるように姿を消す。
引き上げられた棍棒から……地に沈み倒れるヴァニの姿が見える。
終わったと誰もが思った。
ラビが試合終了の合図を言葉にしようとするが……
「……待てよ」
ゆっくりとヴァニが立ち上がる。
「……頼られたんだ……そんなもんで殴られたくらいでその期待に裏切りたくねーんだよ」
そうヴァニが誰かに告げる。
「ぐっ……っ」
ヴァニの放った一撃にストーンの身体がはじめて揺らいだ。
再び石の棍棒が振り下ろされ……再びヴァニの身体は地に倒れる。
……頼られたんだ。
……その期待に……
ストーンが勝負あったと背を向ける。
カウントを取っていた……ラビの口が止まる。
「立ち上がりました……ヴァニ選手、再び立ち上がりましたっ」
そのラビの言葉に……ストーンが振り向き……少しだけ恐怖する。
この男の限界はとう超えている。
HPは0、とっくに戦闘不能状態のはずだ……
試合前に……レスが俺に言ったんだ。
俺たちが笑って皆で卒業する……そのためにもこの勝負勝ってくれって……
そう頼まれたんだ。
その意味は余りわかんなかったけどな……
俺が唯一認めた男なんだ……
こんな棍棒で殴られるよりもずっと重たい一撃だった……
「……そんな、すげぇ奴に、この俺は頼られて……この場に立っているんだよっ」
歯を食いしばりその場にヴァニが立ち上がる。
今までで一番となるであろう……懇親の一撃。
ストーンは思わず自ら決めたそのルールを破り、棍棒を振りかざした。
ほぼ同時にその一撃がお互いの身体にヒットする……。
2人の身体がその場に崩れ落ちる。
ラビのカウントが開始される。
「……6……5……4……」
2人とも倒れたまま……カウントが続き……
「……3……2ぃ……た、立ちががりました……」
一部の生徒たちから歓声があがっている……
立ち上がった勝者は、手甲をまとった腕を天空にかがけ……
立ったまま気を失った。
「勝者、1年特別クラス ヴァニ選手!!」
ラビがそう宣言する。
能力者の修復魔法であっという間に、リングが修復される。
次鋒戦……クロハがそのリングに上がる。
2学年にして……副会長を務める。
別に戦闘能力の高さで生徒会役員を務めるわけではないのだろうが……
それでも、凛とした態度。
クロハに引きを取らない能力の高さが見受けられる。
だが……個のクロハの実力の高さは、この世界をたいして知らぬ俺が言うのもなんだが、恐らく2学年3学年を入れても上位に食い込めるほどであるだろう。
ここで、クロハが勝利してくれれば、俺は会長……レインの兄、スコールとの戦いはほぼ、勝敗に意味はなくなる。
他力本願ではあるが……このクラスを持続するためにも……彼女の勝利を願うしかない。
「次鋒戦……クロハ選手VSツキヨ選手、試合開始ッ!!」
「小鳥丸《こがらすまる》……抜刀……」
クロハの持つ刃のない柄から漆黒の刃が現れる。
「咲けッ 初桜《はつさくら》」
ツキヨが桃色の刀を懐から抜刀する……
クロハの顔が少しだけ……曇る。
正直……聞いたことがない。
シラヌイ家、ハーモニー家……
それなりに名のある家計だ。
同じ刀を所有する……アリアケ家?
いったい……
副会長にまで登り詰めるだけの実力を所有する家計があったのだろうか……
「刀技……光芒《こうぼう》」
黒い刀風がツキヨに向かい飛ぶ。
「……散れっ、徒桜《あだざくら》ッ」
ツキヨが桃色の刀を天に翳すと、桃色の輝きが刀身から零れるように落ちると……鋭い刀風に姿を変えクロハに向かい飛ぶ。
「!?」
クロハは思わず驚く。
相殺された……?
「刀技……牙閃《がせん》」
漆黒の刀を突き出しながら、地を蹴りツキヨ目掛け地から離れた足を再び地面につけることなツキヨ目掛け突進する。
「……舞散れっ、残桜《ざんおう》ッ」
ツキヨが立っていた場所を黒い影が残るように……
残像を残し、恐れることなくクロハに向かいうつように突進する。
均衡している……
と言ってよいかはわからない。
凛とした余裕の態度を崩さないツキヨに変わり……
クロハには、知らぬ流儀の目の前の女に戸惑いを隠せていない。
「……地ずり黒月」
漆黒の刀を地に刺す……それを引き抜くと、
同時に漆黒の黒の刀風がツキヨに向かい飛ぶ。
「飛び散れッ……飛花《ひか》」
ツキヨが素早く桃色の刀で地を数回撫でる……
数多の桃色の刀風が集合するとクロハが放った黒月に匹敵する刀風を作り出す。
攻撃が相殺される……。
まるで……遊んでいる……?
そんな余裕すら感じられる……。
その不安を読み取るように、凛とした態度を崩さず、ツキヨが小さく笑う。
「消す……余裕……覚悟」
クロハが、淡々と単語を口にする。
ズンと重力が増すような感覚……黒いオーラがクロハが周囲にまとう。
「……修羅気迫……」
1日1回が限界……数分その力を何十倍にも引き上げる。
この一瞬で勝負を決める。
「刀技……牙閃《がせん》」
一瞬……ツキヨが構えるより前にその一撃がツキヨを捕らえる。
「……ちっ」
凛としていたツキヨの顔が歪み、その場に立ちひざをつく……
「……さすが……というところか」
ツキヨが額に汗を浮かべそう呟く。
「……地ずり黒月」
先ほどとは比べ物にならない漆黒の刀風がツキヨ目掛け飛んでいく。
「……散れっ、徒桜《あだざくら》ッ」
そんなツキヨの反撃も漆黒の刀風はかき消し、ツキヨの身体を捕らえる。
ツキヨは刀を横に構え……刀身の裏を左手で支えその一撃を何とか防ぐ。
「終わり……決める……刀技……牙閃《がせん》」
そうクロハが構えるが……
「……1年ごときが……修羅を極めたくらいで、この生徒会、副会長を出し抜けると思うなっ」
そうツキヨが不適に笑った。
「……百鬼夜行《ひゃっきやこう》」
まるで、闇に包まれたかのように周囲が闇飲まれる。
地面からツキヨを彩った黒い影が何体も姿を形造る。
「……咲き誇れッ!桜花爛漫《おうからんまん》」
闇の中にきれいに満開の桜の木が数十本出現する……
「………」
いったい……何が?そうクロハの脳裏に過ぎるが……
させてはならない……今の修羅に入った自分の牙閃《がせん》なら……
一気にそのツキヨ本体へ突進する。
「散り吹雪け……血桜《ちざくら》ッ」
くるりと桃色の刀をその場で回転させた。
黒い影が真似するように手にした刀を回転させる。
満開の桜の木から全ての花びらが散り落ちる……
そして、いっせいに回転した刀の風になびくように、桜の花びらが一斉に鋭い刃のようにクロハの身体を埋め尽くすようにクロハの背後に吹き抜けていく。
周りの闇も同時に晴れ……影も桜の木も幻影のように消える。
まるで、クロハの身体が最後に残った桜の木だと言う様に……
一枚、一枚鋭い刃に変わった花びらに切り刻まれたクロハの身体から、
桜が散るように、身体の傷から血が散る桜のように噴出した。
「……ごめん……なさい」
クロハは誰かに謝ると……その場に倒れる。
ラビのカウントが……10から0を数え終わる。
「勝者……生徒会、ツキヨ選手っ」
凛とした態度で……当然の結果だと言う様に、涼しい顔でステージを退場しようとするが、リングを降りる階段に差し掛かったところで……
「……くっ」
その場に一度ひざをつく。
「……さすがに本気でいかないと、負けていたか……」
額に汗をかき、わき腹あたりを押さえながらツキヨは言うと、
再び何事も無かったかのように立ち上がりステージを降りた。
1勝1敗……
後が無くなった……
こんな俺のわがままに……
本気で頑張ってくれた2人……
……先に待つのは学園最強と呼ばれた男だ。
リングに向かわなくては……
勝てる……勝てないじゃない……
俺が俺の責任に皆を巻き込んだ責任だ。
「なぁ……レイン、悪役は、正義の味方に勝ってもいいのか?」
リングに向かう前……隣に居るレインにそう尋ねた。
「……どういう意味だ?」
そう不思議そうにレインが聞き返す。
「……そんな、絶望した顔をするなよ」
そうレインではない誰かに語りかける。
「……皆で笑って卒業しようぜ……」
俺は、少し離れた場所にいた先生《フレア》に言うと、ステージに向かい歩きだした。
悪いけど……簡単に負けてやる訳にはいかなくなったぜ……生徒会長。
俺はそう心の中で呟き、ステージの上に立った。
交流戦で3勝を取った。
その結果……3年……それも表向きには最強と言われる生徒会との対戦。
そんな、明らかに結果の見えている戦いで……
俺は、教師《フレア》に、この試合の結果はクラスの解散に繋がらないのだろうと尋ねたが……
「……わたしを追い出す理由、クラスを解散させる理由……そんなものはどうとでもでっちあげられる」
そうフレアが俺に言った。
翌日の3年生徒会との交流戦……
この現状を作り上げたのも、それを望む誰かなのだろうか……
交流戦……参加は昨日のダブル戦に参加した6名に限られる。
だが、俺の特別クラスは3戦を全て俺が出場している。
結果、出場できるのは……
俺と、ヴァニとクロハとレインの4名。
初戦がヴァニ。
次戦にクロハ。
決戦にレス。
そう選択された。
生徒会……脅威なのは生徒会長であるスコール。
他力本願ではあるが……初戦と次戦で2勝を取ってもらう。
それが……今回出せる最良な作戦だ。
昨日に続いて、俺とヴァニ、クロハの3名はリングに整列している。
対峙するように並んでいるのは3学年生徒会長 スコール=アクア
眼鏡をかけたポニーテールの黒髪女子……2学年副会長 ツキヨ=アリアケ
クロハ二人分の体格の男…3学年書記(?) ストーン=ハガー
先鋒戦……
ヴァニとストーンがリング上に残る。
勝手なイメージだが……とても、書記というような繊細な役職者とは思えない男。
そこそこの力自慢のヴァニさえも一回り小さく見える。
「それじゃ、生徒会VS1学年特別クラスの先鋒戦をはじめるよぉー!」
引き続きラビ=ホストが司会進行をつとめている。
「試合開始ぃーーーッ」
その合図と共に先に動いたのはヴァニ……ストーンの元に恐れることなく直進し、その移動の際に魔力武装を開放し腕に手甲を装着する。
ストーンはその場から一歩も動かず……何一つ抵抗することなくヴァニの一撃が 左の頬を捉える。
ストーンは一歩も動くことなく……
「うん、実にいいパンチだ……昨日見ていたとおり、実に気持ちの良い一撃だ」
そうヴァニに告げる。
「どうだ……1年、見たところお前も俺と同じで、相手の攻撃を避けたり、相手の行動を読んだり難しいことは苦手そうだ、そこで一つ提案だがな、攻撃方法はどんなものでもかまわねぇ、交代でお互いに自分の持つ一撃を受け、どちらが立ち続けていられるか……根競べといかねーか?」
そう、にやりと笑った。
「あぁ……別にそれでいいぜ」
ヴァニは安易にそれを受け入れる。
「だったら、先輩、あんたの番だ……そのつもりで俺の一撃を黙って受けたんだろ」
そうヴァニがストーンに返す。
「あぁ……だったらっ」
ヴァニと同じように右手を振り上げ、ヴァニの顔面目掛け振り下げた。
1歩後ろに下がり、踏みとどまる。
が……少し足に来ているのが外からでもわかる。
まるで、RPGのように、お互いに交互にただの攻撃コマンドを互いに繰り返すように、攻撃を受け耐えては、相手に攻撃をすることを繰り返す。
数十回にも及ぶその繰り返し……
同じようにRPGで例えるなら、攻撃力とHPと防御力の計算になる。
攻撃力に置いては、魔力の武装具がある分、ヴァニが有利だろう。
HPと防御力に置くとストーンに分があるのだろう。
見るからに先に限界を迎えるのはヴァニの方だ。
明らかに相手の一撃を受けるたびに、踏みとどまってることがやっとで……
気を抜けば崩れ落ちそうだった。
そして、体力の消耗に比例するように……ヴァニの攻撃の制度も落ちている。
そして……何よりも……あのストーンという男はその能力を開放していない。
その能力値が、あの体力と防御力に振られていたとして……
あの素手以外に攻撃手段を持っているとしたら……
……そんな悪い予感は……
「そんじゃ、そろそろ……本気でいくぜ」
ストーンがそう言うと……石の棍棒が握られている。
棍棒を振り上げ、ヴァニの元に振り下ろされる。
思わず数名が目を反らしてしまうような光景。
地面が崩れ……そのリングにあいた穴にヴァニが埋め込まれるように姿を消す。
引き上げられた棍棒から……地に沈み倒れるヴァニの姿が見える。
終わったと誰もが思った。
ラビが試合終了の合図を言葉にしようとするが……
「……待てよ」
ゆっくりとヴァニが立ち上がる。
「……頼られたんだ……そんなもんで殴られたくらいでその期待に裏切りたくねーんだよ」
そうヴァニが誰かに告げる。
「ぐっ……っ」
ヴァニの放った一撃にストーンの身体がはじめて揺らいだ。
再び石の棍棒が振り下ろされ……再びヴァニの身体は地に倒れる。
……頼られたんだ。
……その期待に……
ストーンが勝負あったと背を向ける。
カウントを取っていた……ラビの口が止まる。
「立ち上がりました……ヴァニ選手、再び立ち上がりましたっ」
そのラビの言葉に……ストーンが振り向き……少しだけ恐怖する。
この男の限界はとう超えている。
HPは0、とっくに戦闘不能状態のはずだ……
試合前に……レスが俺に言ったんだ。
俺たちが笑って皆で卒業する……そのためにもこの勝負勝ってくれって……
そう頼まれたんだ。
その意味は余りわかんなかったけどな……
俺が唯一認めた男なんだ……
こんな棍棒で殴られるよりもずっと重たい一撃だった……
「……そんな、すげぇ奴に、この俺は頼られて……この場に立っているんだよっ」
歯を食いしばりその場にヴァニが立ち上がる。
今までで一番となるであろう……懇親の一撃。
ストーンは思わず自ら決めたそのルールを破り、棍棒を振りかざした。
ほぼ同時にその一撃がお互いの身体にヒットする……。
2人の身体がその場に崩れ落ちる。
ラビのカウントが開始される。
「……6……5……4……」
2人とも倒れたまま……カウントが続き……
「……3……2ぃ……た、立ちががりました……」
一部の生徒たちから歓声があがっている……
立ち上がった勝者は、手甲をまとった腕を天空にかがけ……
立ったまま気を失った。
「勝者、1年特別クラス ヴァニ選手!!」
ラビがそう宣言する。
能力者の修復魔法であっという間に、リングが修復される。
次鋒戦……クロハがそのリングに上がる。
2学年にして……副会長を務める。
別に戦闘能力の高さで生徒会役員を務めるわけではないのだろうが……
それでも、凛とした態度。
クロハに引きを取らない能力の高さが見受けられる。
だが……個のクロハの実力の高さは、この世界をたいして知らぬ俺が言うのもなんだが、恐らく2学年3学年を入れても上位に食い込めるほどであるだろう。
ここで、クロハが勝利してくれれば、俺は会長……レインの兄、スコールとの戦いはほぼ、勝敗に意味はなくなる。
他力本願ではあるが……このクラスを持続するためにも……彼女の勝利を願うしかない。
「次鋒戦……クロハ選手VSツキヨ選手、試合開始ッ!!」
「小鳥丸《こがらすまる》……抜刀……」
クロハの持つ刃のない柄から漆黒の刃が現れる。
「咲けッ 初桜《はつさくら》」
ツキヨが桃色の刀を懐から抜刀する……
クロハの顔が少しだけ……曇る。
正直……聞いたことがない。
シラヌイ家、ハーモニー家……
それなりに名のある家計だ。
同じ刀を所有する……アリアケ家?
いったい……
副会長にまで登り詰めるだけの実力を所有する家計があったのだろうか……
「刀技……光芒《こうぼう》」
黒い刀風がツキヨに向かい飛ぶ。
「……散れっ、徒桜《あだざくら》ッ」
ツキヨが桃色の刀を天に翳すと、桃色の輝きが刀身から零れるように落ちると……鋭い刀風に姿を変えクロハに向かい飛ぶ。
「!?」
クロハは思わず驚く。
相殺された……?
「刀技……牙閃《がせん》」
漆黒の刀を突き出しながら、地を蹴りツキヨ目掛け地から離れた足を再び地面につけることなツキヨ目掛け突進する。
「……舞散れっ、残桜《ざんおう》ッ」
ツキヨが立っていた場所を黒い影が残るように……
残像を残し、恐れることなくクロハに向かいうつように突進する。
均衡している……
と言ってよいかはわからない。
凛とした余裕の態度を崩さないツキヨに変わり……
クロハには、知らぬ流儀の目の前の女に戸惑いを隠せていない。
「……地ずり黒月」
漆黒の刀を地に刺す……それを引き抜くと、
同時に漆黒の黒の刀風がツキヨに向かい飛ぶ。
「飛び散れッ……飛花《ひか》」
ツキヨが素早く桃色の刀で地を数回撫でる……
数多の桃色の刀風が集合するとクロハが放った黒月に匹敵する刀風を作り出す。
攻撃が相殺される……。
まるで……遊んでいる……?
そんな余裕すら感じられる……。
その不安を読み取るように、凛とした態度を崩さず、ツキヨが小さく笑う。
「消す……余裕……覚悟」
クロハが、淡々と単語を口にする。
ズンと重力が増すような感覚……黒いオーラがクロハが周囲にまとう。
「……修羅気迫……」
1日1回が限界……数分その力を何十倍にも引き上げる。
この一瞬で勝負を決める。
「刀技……牙閃《がせん》」
一瞬……ツキヨが構えるより前にその一撃がツキヨを捕らえる。
「……ちっ」
凛としていたツキヨの顔が歪み、その場に立ちひざをつく……
「……さすが……というところか」
ツキヨが額に汗を浮かべそう呟く。
「……地ずり黒月」
先ほどとは比べ物にならない漆黒の刀風がツキヨ目掛け飛んでいく。
「……散れっ、徒桜《あだざくら》ッ」
そんなツキヨの反撃も漆黒の刀風はかき消し、ツキヨの身体を捕らえる。
ツキヨは刀を横に構え……刀身の裏を左手で支えその一撃を何とか防ぐ。
「終わり……決める……刀技……牙閃《がせん》」
そうクロハが構えるが……
「……1年ごときが……修羅を極めたくらいで、この生徒会、副会長を出し抜けると思うなっ」
そうツキヨが不適に笑った。
「……百鬼夜行《ひゃっきやこう》」
まるで、闇に包まれたかのように周囲が闇飲まれる。
地面からツキヨを彩った黒い影が何体も姿を形造る。
「……咲き誇れッ!桜花爛漫《おうからんまん》」
闇の中にきれいに満開の桜の木が数十本出現する……
「………」
いったい……何が?そうクロハの脳裏に過ぎるが……
させてはならない……今の修羅に入った自分の牙閃《がせん》なら……
一気にそのツキヨ本体へ突進する。
「散り吹雪け……血桜《ちざくら》ッ」
くるりと桃色の刀をその場で回転させた。
黒い影が真似するように手にした刀を回転させる。
満開の桜の木から全ての花びらが散り落ちる……
そして、いっせいに回転した刀の風になびくように、桜の花びらが一斉に鋭い刃のようにクロハの身体を埋め尽くすようにクロハの背後に吹き抜けていく。
周りの闇も同時に晴れ……影も桜の木も幻影のように消える。
まるで、クロハの身体が最後に残った桜の木だと言う様に……
一枚、一枚鋭い刃に変わった花びらに切り刻まれたクロハの身体から、
桜が散るように、身体の傷から血が散る桜のように噴出した。
「……ごめん……なさい」
クロハは誰かに謝ると……その場に倒れる。
ラビのカウントが……10から0を数え終わる。
「勝者……生徒会、ツキヨ選手っ」
凛とした態度で……当然の結果だと言う様に、涼しい顔でステージを退場しようとするが、リングを降りる階段に差し掛かったところで……
「……くっ」
その場に一度ひざをつく。
「……さすがに本気でいかないと、負けていたか……」
額に汗をかき、わき腹あたりを押さえながらツキヨは言うと、
再び何事も無かったかのように立ち上がりステージを降りた。
1勝1敗……
後が無くなった……
こんな俺のわがままに……
本気で頑張ってくれた2人……
……先に待つのは学園最強と呼ばれた男だ。
リングに向かわなくては……
勝てる……勝てないじゃない……
俺が俺の責任に皆を巻き込んだ責任だ。
「なぁ……レイン、悪役は、正義の味方に勝ってもいいのか?」
リングに向かう前……隣に居るレインにそう尋ねた。
「……どういう意味だ?」
そう不思議そうにレインが聞き返す。
「……そんな、絶望した顔をするなよ」
そうレインではない誰かに語りかける。
「……皆で笑って卒業しようぜ……」
俺は、少し離れた場所にいた先生《フレア》に言うと、ステージに向かい歩きだした。
悪いけど……簡単に負けてやる訳にはいかなくなったぜ……生徒会長。
俺はそう心の中で呟き、ステージの上に立った。