「1…2の……」
3で、ツキヨとクレイは同時に地を蹴りあげ、一気にヨウマとの距離を縮める。
「睡閃……」
そうヨウマは空間を切り裂くように刀を横に振るうと……
ツキヨとクレイの身体が後方へと弾き飛ばされる。
二つの妖刀を手にしたとしても……
その師の妖刀うらみは強大で……
その器として妖魔化デーモンした彼女の力は、
二人の力を合わせたとしても均等することを許さない……
「1…2の……」
3で再びツキヨとクレイが同時に動く。
「無駄っ」
再びヨウマが刀を横に振るう。
即座にクレイがツキヨの前に立ちその一撃を受け止めると同時に後方に吹き飛ばされる。
同時にツキヨが上空に飛び上がり、すばやく落下し妖刀まさむねをヨウマに振り落とす。
瞬時に頭上にかざしたダリアがその一撃を受け止める。
左の拳こぶしでツキヨの頬に裏拳を決めるようにツキヨが吹き飛ばされる。
その隙をつくように今度はクレイが鬼丸国綱オニマルクニツナを振り下ろすが、その一撃も左腕でその刃を受け止める。
「……聞こえる……ヨウマ」
そう刃を防がれたまま……クレイがヨウマに呼びかける……
「何してるんだよ……そんな姿になって……何してるんだって聞いている」
そうヨウマに呼びかける……
「ドウシテ……ナンデ……ナンデ……ワタシヲ、ソンナ、メデ……ミルノ?」
そうクレイの刀を手放し自分の顔を覆い隠す。
「だったら……その影しょうきを払え……あんたの素顔をちゃんと見せてよ」
そう……ヨウマに呼びかける。
「私の前から姿を消したくせに……今更、今更っ!!」
狂ったように頭を揺すりながら……
「勝手なこと言うな、言うなよ……私を見ようともしなかったくせに……くせにさぁーっ」
刃を振るうとクレイの身体が後方に吹き飛び、地を転がりまわる。
「ずっと、ずっとねぇ……待ってたよ……待ってたんだよぉ……お父さんが消えて……そしてお母さんもね……あの日……消えて……うん……それはしかたなかったの……その事でクレイちゃんも……ツキヨちゃんも恨んでなんていなかったよぉ……なのに……なのにねぇ……」
ヨウマはそう二人を交互に見つめ……
「どうして……どうして……私の前から姿を消しちゃったの?わたしを独りにしちゃったのぉ……わたしが……のろまだから?わたしが出来損ないだから……?だから……だからね……学園ここにお願いして……」
そう……これまでの経緯を語るように……
「わたしは……ここまで成長したんだよ……二人に置いていかれないだけの力を手に入れたんだよ……二人に見てもらえるように努力をしたんだよぉ……なのに…なのにどぉしてぇ?」
そう……二人の瞳を恐れるように……
「ドウシテ……ドウシテ……ソンナメデ……ワタシヲミルノッ」
そう叫ぶ。
「こんなはずじゃ、無かったのに……無かったのにぃ」
そう泣き叫ぶ。
さすがにクレイもツキヨも戸惑いの顔をする……
あの日……あの時の……3人の覚悟は……
あまりにもすれ違い……
選択を誤っていた……
「ヨウマ……私をあんたを……あんたにそんな姿にしたくなかったから……」
あの日から今日までを生きる選択をした……
裏切る形で守ろうと思った……
「ウソツケェーーーーーッ!!」
そうヨウマが否定する……
「嫌いだ……嫌い、嫌い、嫌い……皆……皆……私を見てよ……なんで……なんで……お母さんもずっとずっと……私を見てくれなかった……だから……お母さんが成しえなかったこの妖魔化このばしょに……辿り着いたのに……」
「散れっ……徒桜あだざくらッ」
不意をつくようにツキヨの一撃がヨウマを捕らえる。
今の瘴気を鎧に纏うヨウマにはさほどのダメージを与えられていない……
それでもその一撃に弾き飛ばされるようにその場に倒れる……
「キライ……キライダ……」
ぶつぶつとそうヨウマが呟き、起き上がる。
「いい加減……目を覚ましなよ、ヨウマ……」
そうツキヨがヨウマに言う。
「あんたは本当に今の自分を私やクレイに見て欲しかったの?」
その言葉に……
「キライ……キライ……見なかったくせに……見てくれなかったくせに……今更、勝手なこと……勝手なこと言わないで」
そうヨウマが狂ったように返す。
「……ヨウマ……皆、お互い様……なんだ」
そうツキヨがヨウマに返す。
「……あんたは……見ようとしたか……クレイがあんたや私のために……自分を偽り続け……その罪を、背負い続けていた姿を……」
そうツキヨが続ける……
「キライ……キライだよぉ~~だったら……今更……ツキヨちゃん……だったら……私を………助けて」
そう……悲しそうな顔を向ける。
妖刀まさむねを握りなおす……
「………もう……きっと……取り返しのつかない所まで……来てしまったんだね……わたしたち……」
そうツキヨは覚悟を決める……
・・・
駄目だ……駄目だ……
見誤るな……
彼女達の過去それを守れないのなら……
お前は多分……ここに要る意味が無い……
……せめて、それくらい成し遂げろよ……俺おちこぼれ……
その覚悟を邪魔してでも……
その勝利を邪魔してでも……
俺は俺の成すべきことを……成せ……
・・・
「1…2の……」
3っ……再びクレイとツキヨは同時に動き……
そして……
「本当にあんたの成長速度には……嫉妬する……」
目の前で妖刀ダリアと刃を合わせ、鍔迫り合いに持ち込んでいるツキヨに素直に嫉妬の言葉をかける。
「舞い散れっ残桜ざんおうッ!」
そのクレイの一撃を受けヨウマの身体が後方に吹き飛ぶ……
……さきほどの会話に確かにヨウマは同様した隙があったのだろう……
それでも……そこまで上り詰めた二人の能力と……
その彼女ヨウマが産んだ動揺は……
彼女をさらに追い詰める結果となる……
それは……取り返しのつかない過ちとなる……
「ドウシテ……ドウシテ……ココマデ……キタノニ……ココマデ……マダ……タリナイノ……マダ……ダッタラ……モット……モット……チカラヲカセヨ……ダリアァーーーーッ」
妖刀ダリアから更なる瘴気が放たれる……
同時にその瘴気を取り込んでいく……
すでに限界ぎりぎりであった彼女ヨウマ……
それが意味するところは……
目の前の二人は……戸惑いながらも……
きっと……覚悟を決めてしまうのだろう……
瘴気を取り込んだヨウマに最後の突進を決めたクレイとツキヨ……
頃合か……
「オトネ……」
俺は隣のオトネを呼びかける……
オトネはその俺の言葉を理解するように……
「びゅんっ」
そう言うと……
「ピタッ」
リングのツキヨ、クレイ……ヨウマの三名の間に立つと……
両腕をツキヨとクレイの前にかざしてその動きを止める……
「レス……あんた何をっ」
遅れてリングにかけつけた俺にツキヨが困惑した声をかける……
俺は許される魔力を駆使してヨウマを結界で覆い隠す……
すでにある程度の瘴気を取り込んでしまっているようだが、
残りの瘴気を取り込めないように壁を作る。
「ジャマ……ジャマスルナァ」
瘴気を取り込むことに失敗したヨウマの怒りの矛先は俺に向かう。
ヨウマの妖刀が俺の左肩を貫いて……
その痛みに全てを後悔しそうになるが……
少しは意地を見せろよ……俺レス……
少しは偽かっこつけろよ……
「……選手以外がリングにあがるのは反則……ツキヨ選手、クレイ選手……の反則負け、2回戦……勝者はヨウマ選手、イザヨイ選手ですっ」
ラビ先輩の勝者宣言が会場に響き渡る……
「勝負はついた……あんたの勝ちだ……」
俺はヨウマにそう告げる。
「満足したか……これがあんたが望んだ……光景か?」
そう目の前の妖魔ヨウマに言う……
戸惑う彼女に……
「言える……人間じゃないけどさ……素直になれよ……あんたも……そして……あんたも……」
そうヨウマ……クレイに言う。
両腕に結界をまとわせる。
彼女ヨウマを覆う黒い影に手をかけるとそれを引き剥がすようにそれを取り除く。
妖魔化が解けた姿がそこにある……
クレイは……
そんなヨウマに「おかえり…」という言葉を心に留め抱きしめる……
そして……代わりに……
「ただいま……」
と……彼女を強く抱きしめる……
「どうして……どうして……今まで……私の元にかえって来てくれなかったのぉ……ツキヨちゃん……クレイちゃん……わたしは……わたしはねぇ……此処にいるよぉ」
そう……クレイの腕の中……天を眺め涙を流すヨウマに……
「ごめんね……どうして……この一言が言えなかった……んだろうな……」
あの日……師ははを斬ったこと……
二人の前から姿を消したこと……
3年越しの謝罪を今更……
「……あぁ……う、うん」
俺の目線に気がついたツキヨが二人に近づく……
「ごめん……二人の気持ちには気がついていた……それでも私は……結果きょうというものを止められなかった……」
そうツキヨも謝罪する……
「ごめんね……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」
壊れたようにヨウマがその言葉を繰り返す……
……言えた……人間ではない……理解している……
それでも……過去を……元の形に戻すために……
……必要なことがあるのなら……
それができる人間がここにいるのなら……
「守るものを見誤るなよ……二人を守ったところで……あんたが犠牲になったその結果に……あんたが守ろうとしたものはそこにあるのかよ……」
そう……偽り続けた彼女ほんものに告げる……
「……クレイ……後はあんたが素直に……それをきちんと言葉にするだけだろ?」
そう……クレイに俺は言う。
後悔しないために……
今を後悔しないために……
過去を無駄にしないために……
クレイはツキヨとヨウマの前に崩れ落ちるように……
そして……二人に……その思いを……今日までの……その思いを……
「間違った事で自分を正してきた……誰かを犠牲に貴方たちを守ってきた……そんな私を偽ってあなた達を騙してきた……」
……そんな彼女が本当に守りたかったもの……
ずっと……ずっと遠回りで空回りで……
だからせめて……その想いはきちんと形に残すべきだろう……
「ずっと……ずっと……あんたたちの憧れでありたかった……偽りに塗れてでも……それを守りたかった……そんな……わたしを……どうか……どうか……」
それは彼女の二人に対する切実な願い……
本当に守り願ってきたもの……
「こんな……わたしを……もう一度……もう一度……愛してください……」
彼女はそう……涙を流し、二人に願った……。
レス……これで守った気になるなよ……
彼女達のこの惨劇をハッピーエンドで終わらせるんだろ……
だったら……まだ気を抜くな……
1対1……負ける訳にはいかねぇだろ。
仲間を裏切り……勝負を捨てた。
反則してでも裏切まもりたかった……
そこで終わるんじゃねーだろ……
この世界で俺てめぇに許された防御特化のうりょくで、できる事などたかが知れている……
だったら、せめてその程度で抗え……
せめて、その能力で許される程度に……守って見せろよ……
準決勝……最終戦……
その気配には気づいていた……
でも……何処かで信じたくなかったのだろう……
「待たせたな……少年……」
そんな特殊で……驚異的な能力……そんな彼女を出し抜ける奴など……
本人の自作自演……少し考えれば……
あの……トップ3ほどの人物を翻弄させた能力……
俺たち全員を準決勝から遠ざけた能力……
そんな驚異的な空間から俺たちを脱出させる能力……
準決勝、最終戦……
最後の対戦者の一人はリングに上がる……
「なぁ……対戦者を一人指定してもいいか……」
そう目の前の女は俺を見て笑い……
「あがって来い……少年」
そう俺を指名する……
決勝戦のもう一人……
2丁拳銃の同クラスの生徒……
最初から……二人とも敵側のスパイだった訳か……
残りの仲間はまだ彼女のトラップに取り込まれているのだろう……
そう考えれば彼女の能力はその分差し引かれているのだろうが……
それでも……彼女のその能力トラップはそれこそ……最強《トップ3》に肩を並べている。
「さて……もう一人は誰が名乗り出る?」
そう……女の言葉に……
オトネもツキヨも名乗り出る勢いだったが……
「私が出よう……」
ライトたちと一緒に別行動中だった筈……
「アストリア?」
俺はその助っ人名を呼ぶ。
「まぁ……この展開は想定済みであったからな……レス、私をがっかりさせるなよっ」
そうアストリアがリングに登る。
「準決勝、最終戦……レス選手、アストリア選手対セティ選手、マリア選手の試合を開始しますッ!!」
ラビ先輩の試合開始の合図が会場に響き渡った。
3で、ツキヨとクレイは同時に地を蹴りあげ、一気にヨウマとの距離を縮める。
「睡閃……」
そうヨウマは空間を切り裂くように刀を横に振るうと……
ツキヨとクレイの身体が後方へと弾き飛ばされる。
二つの妖刀を手にしたとしても……
その師の妖刀うらみは強大で……
その器として妖魔化デーモンした彼女の力は、
二人の力を合わせたとしても均等することを許さない……
「1…2の……」
3で再びツキヨとクレイが同時に動く。
「無駄っ」
再びヨウマが刀を横に振るう。
即座にクレイがツキヨの前に立ちその一撃を受け止めると同時に後方に吹き飛ばされる。
同時にツキヨが上空に飛び上がり、すばやく落下し妖刀まさむねをヨウマに振り落とす。
瞬時に頭上にかざしたダリアがその一撃を受け止める。
左の拳こぶしでツキヨの頬に裏拳を決めるようにツキヨが吹き飛ばされる。
その隙をつくように今度はクレイが鬼丸国綱オニマルクニツナを振り下ろすが、その一撃も左腕でその刃を受け止める。
「……聞こえる……ヨウマ」
そう刃を防がれたまま……クレイがヨウマに呼びかける……
「何してるんだよ……そんな姿になって……何してるんだって聞いている」
そうヨウマに呼びかける……
「ドウシテ……ナンデ……ナンデ……ワタシヲ、ソンナ、メデ……ミルノ?」
そうクレイの刀を手放し自分の顔を覆い隠す。
「だったら……その影しょうきを払え……あんたの素顔をちゃんと見せてよ」
そう……ヨウマに呼びかける。
「私の前から姿を消したくせに……今更、今更っ!!」
狂ったように頭を揺すりながら……
「勝手なこと言うな、言うなよ……私を見ようともしなかったくせに……くせにさぁーっ」
刃を振るうとクレイの身体が後方に吹き飛び、地を転がりまわる。
「ずっと、ずっとねぇ……待ってたよ……待ってたんだよぉ……お父さんが消えて……そしてお母さんもね……あの日……消えて……うん……それはしかたなかったの……その事でクレイちゃんも……ツキヨちゃんも恨んでなんていなかったよぉ……なのに……なのにねぇ……」
ヨウマはそう二人を交互に見つめ……
「どうして……どうして……私の前から姿を消しちゃったの?わたしを独りにしちゃったのぉ……わたしが……のろまだから?わたしが出来損ないだから……?だから……だからね……学園ここにお願いして……」
そう……これまでの経緯を語るように……
「わたしは……ここまで成長したんだよ……二人に置いていかれないだけの力を手に入れたんだよ……二人に見てもらえるように努力をしたんだよぉ……なのに…なのにどぉしてぇ?」
そう……二人の瞳を恐れるように……
「ドウシテ……ドウシテ……ソンナメデ……ワタシヲミルノッ」
そう叫ぶ。
「こんなはずじゃ、無かったのに……無かったのにぃ」
そう泣き叫ぶ。
さすがにクレイもツキヨも戸惑いの顔をする……
あの日……あの時の……3人の覚悟は……
あまりにもすれ違い……
選択を誤っていた……
「ヨウマ……私をあんたを……あんたにそんな姿にしたくなかったから……」
あの日から今日までを生きる選択をした……
裏切る形で守ろうと思った……
「ウソツケェーーーーーッ!!」
そうヨウマが否定する……
「嫌いだ……嫌い、嫌い、嫌い……皆……皆……私を見てよ……なんで……なんで……お母さんもずっとずっと……私を見てくれなかった……だから……お母さんが成しえなかったこの妖魔化このばしょに……辿り着いたのに……」
「散れっ……徒桜あだざくらッ」
不意をつくようにツキヨの一撃がヨウマを捕らえる。
今の瘴気を鎧に纏うヨウマにはさほどのダメージを与えられていない……
それでもその一撃に弾き飛ばされるようにその場に倒れる……
「キライ……キライダ……」
ぶつぶつとそうヨウマが呟き、起き上がる。
「いい加減……目を覚ましなよ、ヨウマ……」
そうツキヨがヨウマに言う。
「あんたは本当に今の自分を私やクレイに見て欲しかったの?」
その言葉に……
「キライ……キライ……見なかったくせに……見てくれなかったくせに……今更、勝手なこと……勝手なこと言わないで」
そうヨウマが狂ったように返す。
「……ヨウマ……皆、お互い様……なんだ」
そうツキヨがヨウマに返す。
「……あんたは……見ようとしたか……クレイがあんたや私のために……自分を偽り続け……その罪を、背負い続けていた姿を……」
そうツキヨが続ける……
「キライ……キライだよぉ~~だったら……今更……ツキヨちゃん……だったら……私を………助けて」
そう……悲しそうな顔を向ける。
妖刀まさむねを握りなおす……
「………もう……きっと……取り返しのつかない所まで……来てしまったんだね……わたしたち……」
そうツキヨは覚悟を決める……
・・・
駄目だ……駄目だ……
見誤るな……
彼女達の過去それを守れないのなら……
お前は多分……ここに要る意味が無い……
……せめて、それくらい成し遂げろよ……俺おちこぼれ……
その覚悟を邪魔してでも……
その勝利を邪魔してでも……
俺は俺の成すべきことを……成せ……
・・・
「1…2の……」
3っ……再びクレイとツキヨは同時に動き……
そして……
「本当にあんたの成長速度には……嫉妬する……」
目の前で妖刀ダリアと刃を合わせ、鍔迫り合いに持ち込んでいるツキヨに素直に嫉妬の言葉をかける。
「舞い散れっ残桜ざんおうッ!」
そのクレイの一撃を受けヨウマの身体が後方に吹き飛ぶ……
……さきほどの会話に確かにヨウマは同様した隙があったのだろう……
それでも……そこまで上り詰めた二人の能力と……
その彼女ヨウマが産んだ動揺は……
彼女をさらに追い詰める結果となる……
それは……取り返しのつかない過ちとなる……
「ドウシテ……ドウシテ……ココマデ……キタノニ……ココマデ……マダ……タリナイノ……マダ……ダッタラ……モット……モット……チカラヲカセヨ……ダリアァーーーーッ」
妖刀ダリアから更なる瘴気が放たれる……
同時にその瘴気を取り込んでいく……
すでに限界ぎりぎりであった彼女ヨウマ……
それが意味するところは……
目の前の二人は……戸惑いながらも……
きっと……覚悟を決めてしまうのだろう……
瘴気を取り込んだヨウマに最後の突進を決めたクレイとツキヨ……
頃合か……
「オトネ……」
俺は隣のオトネを呼びかける……
オトネはその俺の言葉を理解するように……
「びゅんっ」
そう言うと……
「ピタッ」
リングのツキヨ、クレイ……ヨウマの三名の間に立つと……
両腕をツキヨとクレイの前にかざしてその動きを止める……
「レス……あんた何をっ」
遅れてリングにかけつけた俺にツキヨが困惑した声をかける……
俺は許される魔力を駆使してヨウマを結界で覆い隠す……
すでにある程度の瘴気を取り込んでしまっているようだが、
残りの瘴気を取り込めないように壁を作る。
「ジャマ……ジャマスルナァ」
瘴気を取り込むことに失敗したヨウマの怒りの矛先は俺に向かう。
ヨウマの妖刀が俺の左肩を貫いて……
その痛みに全てを後悔しそうになるが……
少しは意地を見せろよ……俺レス……
少しは偽かっこつけろよ……
「……選手以外がリングにあがるのは反則……ツキヨ選手、クレイ選手……の反則負け、2回戦……勝者はヨウマ選手、イザヨイ選手ですっ」
ラビ先輩の勝者宣言が会場に響き渡る……
「勝負はついた……あんたの勝ちだ……」
俺はヨウマにそう告げる。
「満足したか……これがあんたが望んだ……光景か?」
そう目の前の妖魔ヨウマに言う……
戸惑う彼女に……
「言える……人間じゃないけどさ……素直になれよ……あんたも……そして……あんたも……」
そうヨウマ……クレイに言う。
両腕に結界をまとわせる。
彼女ヨウマを覆う黒い影に手をかけるとそれを引き剥がすようにそれを取り除く。
妖魔化が解けた姿がそこにある……
クレイは……
そんなヨウマに「おかえり…」という言葉を心に留め抱きしめる……
そして……代わりに……
「ただいま……」
と……彼女を強く抱きしめる……
「どうして……どうして……今まで……私の元にかえって来てくれなかったのぉ……ツキヨちゃん……クレイちゃん……わたしは……わたしはねぇ……此処にいるよぉ」
そう……クレイの腕の中……天を眺め涙を流すヨウマに……
「ごめんね……どうして……この一言が言えなかった……んだろうな……」
あの日……師ははを斬ったこと……
二人の前から姿を消したこと……
3年越しの謝罪を今更……
「……あぁ……う、うん」
俺の目線に気がついたツキヨが二人に近づく……
「ごめん……二人の気持ちには気がついていた……それでも私は……結果きょうというものを止められなかった……」
そうツキヨも謝罪する……
「ごめんね……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」
壊れたようにヨウマがその言葉を繰り返す……
……言えた……人間ではない……理解している……
それでも……過去を……元の形に戻すために……
……必要なことがあるのなら……
それができる人間がここにいるのなら……
「守るものを見誤るなよ……二人を守ったところで……あんたが犠牲になったその結果に……あんたが守ろうとしたものはそこにあるのかよ……」
そう……偽り続けた彼女ほんものに告げる……
「……クレイ……後はあんたが素直に……それをきちんと言葉にするだけだろ?」
そう……クレイに俺は言う。
後悔しないために……
今を後悔しないために……
過去を無駄にしないために……
クレイはツキヨとヨウマの前に崩れ落ちるように……
そして……二人に……その思いを……今日までの……その思いを……
「間違った事で自分を正してきた……誰かを犠牲に貴方たちを守ってきた……そんな私を偽ってあなた達を騙してきた……」
……そんな彼女が本当に守りたかったもの……
ずっと……ずっと遠回りで空回りで……
だからせめて……その想いはきちんと形に残すべきだろう……
「ずっと……ずっと……あんたたちの憧れでありたかった……偽りに塗れてでも……それを守りたかった……そんな……わたしを……どうか……どうか……」
それは彼女の二人に対する切実な願い……
本当に守り願ってきたもの……
「こんな……わたしを……もう一度……もう一度……愛してください……」
彼女はそう……涙を流し、二人に願った……。
レス……これで守った気になるなよ……
彼女達のこの惨劇をハッピーエンドで終わらせるんだろ……
だったら……まだ気を抜くな……
1対1……負ける訳にはいかねぇだろ。
仲間を裏切り……勝負を捨てた。
反則してでも裏切まもりたかった……
そこで終わるんじゃねーだろ……
この世界で俺てめぇに許された防御特化のうりょくで、できる事などたかが知れている……
だったら、せめてその程度で抗え……
せめて、その能力で許される程度に……守って見せろよ……
準決勝……最終戦……
その気配には気づいていた……
でも……何処かで信じたくなかったのだろう……
「待たせたな……少年……」
そんな特殊で……驚異的な能力……そんな彼女を出し抜ける奴など……
本人の自作自演……少し考えれば……
あの……トップ3ほどの人物を翻弄させた能力……
俺たち全員を準決勝から遠ざけた能力……
そんな驚異的な空間から俺たちを脱出させる能力……
準決勝、最終戦……
最後の対戦者の一人はリングに上がる……
「なぁ……対戦者を一人指定してもいいか……」
そう目の前の女は俺を見て笑い……
「あがって来い……少年」
そう俺を指名する……
決勝戦のもう一人……
2丁拳銃の同クラスの生徒……
最初から……二人とも敵側のスパイだった訳か……
残りの仲間はまだ彼女のトラップに取り込まれているのだろう……
そう考えれば彼女の能力はその分差し引かれているのだろうが……
それでも……彼女のその能力トラップはそれこそ……最強《トップ3》に肩を並べている。
「さて……もう一人は誰が名乗り出る?」
そう……女の言葉に……
オトネもツキヨも名乗り出る勢いだったが……
「私が出よう……」
ライトたちと一緒に別行動中だった筈……
「アストリア?」
俺はその助っ人名を呼ぶ。
「まぁ……この展開は想定済みであったからな……レス、私をがっかりさせるなよっ」
そうアストリアがリングに登る。
「準決勝、最終戦……レス選手、アストリア選手対セティ選手、マリア選手の試合を開始しますッ!!」
ラビ先輩の試合開始の合図が会場に響き渡った。